診療支援
治療

下肢における絞扼性神経障害
Entrapment neuropathy in the lower extremity
齋藤 貴徳
(関西医科大学 主任教授)

【疾患概念】

 下肢の絞扼性神経障害は見逃されることの多い疾患として知られている.しかし神経圧迫除去手術の10%は下肢の絞扼性神経障害であり,まれなものではない.整形外科医においても上肢の絞扼性神経障害はよく知られているが,下肢は馴染みの薄い臨床医が多い.その理由の1つは血管系の障害のような訴えがあるためである.この項では下肢の絞扼性神経障害のうちでも比較的頻度の高い疾患について記載する.


1.総腓骨神経の絞扼性神経障害

【1】解剖学的因子

 総腓骨神経は浅層に位置しているという解剖学的な特徴により,外的な要因で障害を受けやすいことが知られている.特に膝窩部から腓骨頭部にかけては皮下に位置しているため触診も容易であるが,その直ぐ末梢部では深部表面に腓骨頚部が存在し,2つの長腓骨筋頭から形成されるトンネル内に進入している.同部は最も絞扼を受けやすい部位である.もう1つの絞扼部は腓骨頭から1~2cm中枢部に位置するfabellaによるものがある.fabellaは腓腹筋外側頭の大腿骨への付着部直前の腱内に存在する種子骨の1種で,裏面は大腿骨の外果後面の軟骨面と関節を形成している.その大きさや位置により総腓骨神経の圧迫が生じ麻痺や疼痛が出現する.

【2】神経学的所見

 上記2部位での絞扼では総腓骨神経の全領域に運動・感覚の脱落症状が生じるが,腰椎由来のL5神経根症状が鑑別に重要となる.感覚は下腿外側と足背の全体に鈍麻を認めるが,腓腹神経の分岐より末梢のことが多く,その場合には第5趾背側の感覚は保たれる.運動は下垂足を特徴とするが,L5神経根症状と異なり,中殿筋(股関節外転筋力)の筋力低下を認めないことで鑑別する.

【3】臨床症状

 疼痛のみで発症することも多く,この場合には明らかな筋力低下を認めないことがある.これはfabella症候群(fabella部での総腓骨神経の絞扼)に多くみられる現象で,

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