【疾患概念】
人口の高齢化により人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty;TKA)症例は増加し,それに伴うTKA周囲骨折症例も増加している.軽微な外傷で発症することが多く,早期荷重をはかるため治療は手術を推奨する.高齢者は骨癒合能が低下しているので低侵襲手術に努めるが,骨質不良や骨量低下により骨折部の固定性が得られ難いため,治療に難渋することがある.
【頻度】
TKA周囲骨折の発生頻度は,0.6~3%と比較的まれである.
【病態】
原因は,コンポーネントの不適切な位置や大腿骨のnotch形成などの手術手技によるもの,人工関節の弛みに伴う骨融解,病的骨折,高齢女性,骨粗鬆症,関節リウマチ,神経疾患の存在,ステロイドの使用,stress shieldingなどが挙げられる.
問診で聞くべきこと
受傷機序,疼痛部位,高齢者では併存する内科疾患,内服薬,認知症の有無,受傷前のADL,在宅,介護認定の有無,介護施設入居などの確認が,治療方針を決定するうえで重要である.
必要な検査とその所見
単純X線による2方向が基本である.粉砕骨折で詳細な骨折型を把握するためにCTが有用であるが,人工関節によるアーチファクトのため読影が困難な場合もある.不顕性骨折が疑われる場合は,MRIが有用である.
診断のポイント
単純X線像,CT像から骨折型を診断する(図25-8a図).高齢者ではさらに既往歴,認知症の有無,受傷前および治療後に予想されるADL,退院後の生活環境など総合的判断のうえに治療方針を決める.
治療方針
【1】保存療法
転位がなく,安定型の骨折であれば保存的治療の適応となる.ギプス固定,functional brace,牽引療法が挙げられるが,高齢者では荷重制限を行うことは困難なうえ,関節拘縮,筋力低下などが生じ,良好な機能成績は望めない.したがって,手術困難な理由がない限り