診療支援
治療

後十字靱帯損傷
Posterior cruciate ligament (PCL) injury
黒田 良祐
(神戸大学大学院 教授)

【疾患概念】

 後十字靱帯(posterior cruciate ligament;PCL)損傷は,ラグビーなど接触型のスポーツ選手や交通外傷でよくみられる靱帯損傷である.スポーツでは膝前方からの相手のタックルなど,膝屈曲位で膝前面を打撲し受傷することが多い.交通事故では,膝屈曲位でダッシュボードに膝前面を強打することで生じる(ダッシュボード損傷).高エネルギー外傷の場合は,他の靱帯損傷や神経血管損傷,軟骨・半月板損傷,骨折などを合併することがある.PCL単独損傷の場合は保存療法によりスポーツ復帰が可能なことが多い.

【臨床症状】

 受傷時は疼痛や脛骨近位前面の擦過傷や打撲痕,膝関節内血腫を認めることが多い.陳旧例では,下り坂や階段での膝不安定感を訴える場合が多い.


問診で聞くべきこと

 受傷機転・肢位,脱臼感や腫脹の有無を入念に聴取する.陳旧例では,不安感や膝くずれの有無,疼痛部位を問診する.


診断のポイント

 受傷機転の聴取と理学所見が特に重要である.特徴的な理学所見は,仰臥位膝90°屈曲位(立て膝)での脛骨後方落ち込み徴候(posterior sagging sign)である.両膝を立て膝とし,脛骨粗面の位置が健側よりも落ち込んでいることを肉眼的に確認し,大腿骨顆部と脛骨高原前縁の段差を両母指にて触知し左右差を確認する.立て膝で脛骨を後方に押し込み不安定性を評価する後方引き出しテスト(posterior drawer test)も診断に有用である.神経血管損傷や他の靱帯損傷,軟骨・半月板損傷の評価も重要である.

 PCL実質部損傷の場合,通常の単純X線像では異常を認めないが,仰臥位膝90°屈曲位で膝側面像を撮影するposterior sagging viewは脛骨後方落ち込みの評価として有用である(図26-15).PCL損傷を疑った場合は,他の靱帯損傷,軟骨・半月板損傷の評価も含め

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