診療支援
治療

長母趾屈筋腱障害
Flexor hallucis longus tendinopathy
平石 英一
(永寿総合病院整形外科〔東京都台東区〕)

【疾患概念】

 ダンスやスポーツなどで母趾に慢性的に負荷がかかり発生する腱の退行性病変である.動作時の疼痛が主症状のため腱炎(tendinitis)とされていたが,障害部位に炎症細胞の浸潤がみられないため,現在では腱障害(tendinopathy)とよばれている.

【臨床症状・病態】

 バレエのルルヴェ(踵を上げ爪先立ちをする)やジャンプ,テニスのサーブ,ダウンヒル走行など,足関節を底屈し母趾に強い負荷がかかる際に疼痛が生じる.大多数は載距突起部の障害であり,腱鞘を有し腱の走向が変わる血流の乏しい部位である.母趾末節骨付着部,第1中足骨頭下部,Henry結節の遠位部にも発生し,まれに皮下完全断裂も起こる.載距突起部では,腱鞘の変性と肥厚,腱線維方向の縦断裂と腱中心部の横断裂を伴う結節状腫大がみられる.縦断裂でも障害部の腱幅は増大し,足関節底屈位では載距突起後部に腱の腫大を触知し,時に弾発現象(第2・3趾にも)がみられる.増悪すると母趾指節間関節の屈伸が困難となり,腱鞘内で嵌頓すると疼痛は消失するが踏ん張りがきかず,パフォーマンスに支障をきたす.一方,皮下完全断裂では衝撃とともに突然屈曲が不能となる.

 高率に併発する三角骨障害とともに足関節後方インピンジメント症候群の主因とされているが,本症単独では下肢の力を抜くと底屈テスト(足関節の底屈強制)では疼痛が惹起されない.


問診で聞くこと

 ダンスやスポーツの種類,練習時間,疼痛の部位,疼痛を惹起する動作など.


検査所見

(1)超音波

 腱の末梢部分や載距突起部の障害では,腱の腫大や腱鞘の肥厚,ガングリオンなどを診断できる.

(2)MRI

 腱の変性(T1,T2強調像で軽度高信号)や腫大,腱周囲の水腫が認められる.三角骨傷害や距骨骨軟骨損傷など他の傷害との鑑別に必須である.

 Henry結節周囲で長趾屈筋腱と相互接続腱が80%以上に存在し,その遠位部で

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