今や,わが国は超高齢社会である.それに伴って,整形外科を訪ねる患者の多くは,高齢である.診療対象となる病態も,以前の急性疾患である外傷から,今は慢性の変性疾患が主体となってきた.慢性疾患に伴う疼痛のなかでも腰痛は,時に,治療に難渋する.
腰痛についての病態のとらえ方も劇的に変わった.腰痛の増悪や遷延化には,従来われわれが認識している以上に早期から,社会的・心理的な要因が深くかかわっている.私の修業時代は,単純X線写真で椎間腔の狭小化と骨棘を認めると,それが腰痛の原因であると患者に説明していた.X線学的不安定性を認めれば,固定術の適応と考えるのが一般的であった.東日本大震災に伴う原発事故によって,心理・社会的因子が,腰痛の増悪や遷延化のみならず発生にも深く関与していることが初めて証明された.
近年,慢性の疼痛は,寿命,認知機能,睡眠障害など,健康に深くかかわっていることも明らかにされた.す