診療支援
診断

子どものマルトリートメント
Child Maltreatment
鈴木 太
(福井大学子どものこころの発達研究センター准教授)

緊急処置

【1】児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)では,医療者の義務として,児童虐待の早期発見,児童虐待の通告が定められており,児童虐待を疑った場合,医師は「速やかに」「市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所(中略)に通告しなければ」ならない。

【2】医師の通告義務は個人情報保護義務に優先する。子どもの自殺危険性が切迫した状態にある場合は,精神科医療機関に紹介する。

診断のチェックポイント

定義:法的な用語としては,child abuseの訳語である児童虐待が用いられているが,近年の医学的な文献では,身体的虐待,性的虐待,情緒的虐待,ネグレクトのすべてを含んだ,子どものマルトリートメント(child maltreatment)という用語が用いられることが多い。

❶身体的虐待:叩く,蹴る,首を絞める,やけどさせる,噛みつく,押す,投げる,落とす,揺するなどの行為によって,子どもを身体的に虐げることである。

❷性的虐待:性的満足を得る目的で,子どもの腟・肛門・口腔への挿入を行ったり,身体に接触したり,性器や性行為を見せること,または,金銭などの対価を得る目的で子どもを性的に搾取することである。

❸情緒的虐待

上記とは異なるやり方で,恐怖・不安・恥辱・罪悪感・嫌悪などの感情を子どもに抱かせることである。

保護者とその性的パートナーとの間に生じる暴力であるintimate partner violence(IPV)を目撃させることも情緒的虐待に分類される。

❹ネグレクト

子どもの身体的,情緒的,教育的,医学的なニーズを満たさないことである。

例えば,致死的または重症の身体疾患,深刻な低体重を伴う摂食障害,自殺性を伴う精神障害などを治療しないことは医療ネグレクトである。

❺わが国在住の成人を対象として回顧的に調査されたマルトリートメントの生涯有病率は以下のとおり

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?