診療支援
診断

攻撃的・暴力的行為
Aggressive and Violent Behavior
林 直樹
(帝京大学教授・精神神経科学講座)

緊急処置

【1】攻撃的・暴力的行為は,周囲の人々や対応する医療スタッフの脅威となりうる行動である。それゆえ,臨床的対応では,その脅威に備える体制が整備されていること,すなわち患者や関与する人々の安全が確認できていることが前提になる。

【2】具体的には,対応可能な隔離室などの設備,十分な人数の医療スタッフの確保などの条件が満たされることである。さらに,応援要請や警察への通報の体制が必要となる場合がある。

【3】攻撃・暴力のリスク評価が対応の第1ステップである。ここでは,診察時における精神運動興奮,攻撃性,衝動性のレベルの評価,これまでの攻撃・暴力の既往〔その回数や程度(相手に外傷を負わせているか否かなど),発生状況(もしくは状況依存性の有無)〕の聴取が重要である。

【4】【3】のような対応がなされたうえで,身体状態の確認と併せて,患者の訴えの聴取や治療の説明をする作業が進められる。

診断のチェックポイント

 診断は,精神症状の評価,攻撃・暴力の発生状況,現病歴,既往歴,各種身体的検査の所見などを総合して行われる。

【1】発生要因の評価:発生要因には以下が含まれる。

❶物質使用。

❷幻覚妄想(特に暴力を発生させる命令形式の幻聴や被害妄想)。

❸攻撃性・衝動性を亢進させる精神障害。

❹パーソナリティ特性(目的実現のために暴力をふるう,衝動性が高いといった特性)。

❺発生したときの外的環境。

【2】経過の把握

❶精神状態の悪化に伴って攻撃・暴力がみられる場合:精神病状態や気分障害などが考えられる。

❷精神状態との関連が乏しい場合:パーソナリティ障害や器質性障害によるパーソナリティ変化などが考えられる。

【3】精神病症状の評価:攻撃・暴力が幻覚・妄想によって説明可能な場合,診断を大きく絞り込むことができる。特に命令形式の幻聴によってその行動が生じたケースでは,統合失調症である可能性が高い。

【4】意識障害や認知症の有

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