診療支援
診断

抑うつ状態
Depressive State
大森 哲郎
(徳島大学教授・精神医学分野)

診断のチェックポイント

背景:抑うつ状態は臨床各科の外来や病棟で最も高頻度に認められる症状の1つである。その背景はさまざまで,心理社会的要因から脳科学的および身体的要因までに広がるが,便宜的に以下の3段階に階層化すると整理しやすい。

❶主として心理環境要因により生じるもの:癌の告知や近親者の死に直面したときに誰でも一時的に抑うつ的となる。心理環境要因によって反応性に生じる抑うつ状態は,誰でもが日常生活で経験する憂うつ,不安,落胆などと質的には大きく異ならない。ただし心理環境要因の軽重によって,また元来の性格傾向によって,症状の性質,程度,持続期間が左右される。ストレス反応適応障害心因性うつ病などはここに含まれる。

❷主として脳機能変調により生じるものであり,精神科領域では伝統的に内因性とよんでいたもの:うつ病と双極性障害抑うつエピソードが該当し,病態の基盤にはセロトニン系やノルアドレナリン系などを含む何らかの脳機能変調が想定されている。さまざまな生活上の出来事が誘因となることがあり,その際は反応性に生じたものと紛らわしいが,程度が強く,持続期間が長い。また,症状に特徴があり,睡眠障害や食欲・性欲低下が著しく,物事に興味を失い,何も楽しめず,症状に日内変動を伴うことが多い。自殺念慮を伴うことが多く,また重症例では,心気妄想,貧困妄想,罪業妄想などの妄想症状が加わることがある。日常生活で経験する憂うつ,不安,落胆などと質的に異なる性質を有する。

主として脳器質病変あるいは身体疾患によるもの:多発性脳梗塞やParkinson病などの脳疾患はしばしば抑うつ症状を呈する。Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症も初期には抑うつ症状が前景に立つことがある。また,全身に影響を及ぼす身体疾患が脳機能へも変化をもたらして抑うつ症状を生じることもまれではなく,例として甲状腺機能低下症や

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