診療支援
診断

自殺企図・故意の自傷行為
Suicide Attempt and Deliberate Self-injury
松本 俊彦
(国立精神・神経医療研究センター・精神保健研究所薬物依存研究部部長)

診断のチェックポイント

 以下の点に留意して情報収集を行う。

❶行為の意図

❷用いた手段の致死性

❸致死性の予測(その行為によってどのような結果を予測していたか)

❹行為に及んだ状況(時間帯や周囲に人がいる状況か否か)

❺計画性・準備性

❻行為に際しての酩酊物質(アルコールや睡眠薬)摂取の有無

❼行為に先行する否定的なイベント(絶望感や喪失感,恥辱感を体験したイベント)の同定

❽過去の自殺企図・自傷歴とその手段・方法

❾結果に対する本人のとらえ方と現在の自殺念慮

❿家族などの反応

定義

❶自殺とは,自殺の意図に基づいて,致死性の予測をもって,自己身体に損傷を与える行為を指す。

❷故意の自傷とは,自殺以外の意図(例:怒りや緊張,恐怖などの感情的苦痛の緩和や,他者への意志伝達)から,非致死性の予測をもって,自己身体に軽度の損傷を与える行為を指す。

❸要するに,損傷の軽重で自殺企図と故意の自傷とを鑑別することはできない点に留意して,意図と致死性の予測を評価することが重要である。

❹また,自殺企図と故意の自傷の厳密な鑑別にさしたる臨床的意義はない点も留意する。故意の自傷であっても,感情的苦痛に惹起された自殺念慮が存在し,それに拮抗する意図から自傷が行われる場合もある。また,故意の自傷を反復していた者でも,今回新たな方法を用いている場合(例:従来リストカットをしてきたが,今回は過量服薬)には自殺リスクが高まっている可能性がある。

❺さらに,自傷頻度の急激な増加傾向や,用いられる自傷方法のエスカレートがみられる場合,あるいは,今回,致死性の低い方法による自傷の範疇の行為であっても,過去に致死性の高い方法による自殺企図歴がある場合(例:今回は過量服薬だが,縊首による自殺企図歴あり)には,近い将来の自殺リスクは高いと考える。

❻故意の自傷は狭義の自殺とは異なるものの,重要な自殺の危険因子であると心得るべきである。

【1】病歴

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