診療支援
診断

前頸部腫瘤
Anterior Cervical Mass
宮内 昭
(隈病院・院長)

緊急処置

【1】前頸部腫瘤のため緊急処置を要することはまれであるが,腫瘤のための気道狭窄による呼吸困難,腫瘤内への急性血腫と膿瘍形成が挙げられる。迅速な状況把握,原因追求,必要な対応を検討する。

【2】ただし,実際には甲状腺などの手術後血腫以外は緊急処置を要することは少ない。軽率な対応はかえって好ましくない結果をきたしうることに注意。

診断のチェックポイント

定義:前頸部とは両側総頸動脈に挟まれ,舌骨より尾側で胸骨上縁までの範囲である。この範囲内には甲状腺,副甲状腺,喉頭,気管および食道が含まれる。腫瘤とは一般的に視触診にてしこりと認識される病変をいうが,ここでは画像検査で検出される病変も取りあげる。最近はこのような症例が増加している。

【1】病歴

❶発見の契機:患者自身,家族や知人,あるいは医師が気づいたのか,検診や他の目的で撮った画像検査で発見されたのか。一般的に前頸部腫瘤が自覚されるのは約2cm,家族や知人が気づくのは約3cmである。画像検査では1cm未満の腫瘤も頻繁に検出される。これは癌の早期診断・早期治療のメリットのみではなく,逆に過剰診断・過剰治療の問題も引き起こしている(図1)。

❷痛み,嗄声,呼吸困難,嚥下障害などの症状の有無:前頸部腫瘤は一般的に無症状である。もしこれらの症状があれば重大な病変であることが強く示唆される。

❸発見後の腫瘤の大きさの変化:月単位で増大する腫瘤は甲状腺未分化癌,リンパ腫などの高悪性度の腫瘍を疑う。数日単位で増大する腫瘤は甲状腺結節内の血腫や分泌液の貯留を考える。甲状腺乳頭癌・濾胞癌は増殖が緩徐であるので,腫瘤が増大していないことでこれらを否定できない。

❹家族歴,放射線被曝歴:甲状腺癌と甲状腺腫には家族性,遺伝性に発生するものがある。甲状腺髄様癌の約4分の1は胚細胞性のRET遺伝子変異によって優性遺伝の様式で発生し,しばしば副腎褐色細胞腫と副

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