緊急処置
【1】嘔吐が主体であったり,めまいのみと判断されたりして,小脳,延髄部の脳卒中を見落とすことがある。特に後頭蓋窩はMRIでの拡散強調画像の変化が現れるのが遅いので留意すること。常に,後頭蓋窩の脳卒中の可能性を念頭におく。後頭蓋窩の脳卒中は,脳ヘルニアの進行や,血管病変の進行による急変の可能性がある。特に延髄外側症候群は見落とされやすい。原因に基づいた急性期の対処をする。
【2】歩行時のふらつきに,眼球運動障害を認めたら,Fisher症候群の可能性を念頭におく。本症は,予後良好であるが,一部,脳幹脳炎に進展することがある。免疫グロブリン大量療法が奏効する。
診断のチェックポイント
●定義:運動失調は,運動麻痺と明確に異なる。特徴は,運動の円滑さの喪失,運動の中断である。失調には,慣れ親しんだ獲得した運動が分解する側面と,体性感覚からの情報の乱れにより,維持運動が乱れる側面がある。小脳および体性感覚の異常で生じる。
【1】病歴
❶歩行障害・運動障害をみたら「失調」を意識する。
❷喫煙歴,腫瘍の既往歴:傍腫瘍症候群などの腫瘍関連を念頭に聞く。
❸発症の仕方:急性,亜急性,慢性で想定される原因が異なるため重要である。
■急性後頭蓋窩の血管障害や,転移性脊椎腫瘍などによる脊髄の圧迫を考慮する。
■亜急性,慢性:治療可能な疾患として,ビタミンB12欠乏症を念頭におく。胃の手術歴のほか,H2受容体拮抗薬,メトホルミン,プロトンポンプ拮抗薬など,薬剤性のビタミンB12欠乏症について検討する。
■亜急性の若年者:小脳炎の可能性を考え,先行感染の有無を確認する。
■慢性:変性疾患を念頭に,眼前暗黒感,排尿障害などの自律神経症状,家族歴,血族結婚の有無を聞く。また,まれではあるが片頭痛や家族内での先天性の運動疾患の有無も参考になる。
❹脳幹の諸核に関連する症状(顔面の感覚障害,難聴,嚥下困難,吃逆,複視),体幹