[Ⅰ]心音の異常
診断のチェックポイント
【1】Ⅰ音の異常
❶亢進・減弱
■徐脈の際にそれまで弱かったI音が突然大きくなる(大砲音)場合は,徐脈の原因が完全房室ブロックである。
■Ebstein奇形例では,右室興奮の遅れによりI音は幅広く分裂し,三尖弁前尖が大きく可動性があれば,三尖弁成分の音が大きくなる。
■心拍出量低下やPR延長の際にI音は減弱する。
❷収縮早期音
■大動脈・肺動脈駆出音
・大動脈駆出音を認める疾患としては,大動脈弁狭窄,大動脈二尖弁,大動脈硬化,高血圧症,大動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全などがある。
・肺動脈駆出音は肺動脈弁狭窄,肺高血圧をきたし肺動脈拡張を生じる疾患(Eisenmenger症候群が典型的)などで認められる。
■収縮中期~後期音
・僧帽弁逸脱(MVP)での収縮期クリックである。
・呼吸や体位などによりその発生時期が移動する。
・複数のクリックが聴取される場合がある。
【2】Ⅱ音の異常
❶分裂の異常
■分裂が持続性で呼吸性変動がある。
・完全右脚ブロックのように肺動脈成分(ⅡP)が遅れる場合や,左室収縮時間の短縮(僧帽弁閉鎖不全など)により大動脈成分(ⅡA)が早まる場合に認められる。
■分裂が持続性で呼吸性変動がない。
・心房中隔欠損症
■逆の分裂を示す(奇異性分裂)。
・半月弁閉鎖の順序が逆で,ⅡPがⅡAに先行するものである。
・完全左脚ブロック,右室にリード線のあるペースメーカ例などで,吸気時にはⅡPが遅れて単一となり,呼気時には分裂する。
❷拡張早期音
■僧帽弁開放音は最もよく知られた拡張早期音である。僧帽弁の辺縁が肥厚・硬化し中央部に可動性があるためヨットの帆のようになり,拡張早期に僧帽弁が開く際に,高い左房内圧のため急激に帆が反転するような高調で持続の短い音を生じることによる。僧帽弁開放音が聴取されることは,僧帽弁に可動性があることを示している。
■心尖部から第4肋間胸骨左縁にかけて高