診断のチェックポイント
●定義:4週間以上軟便が続く状態。
【1】病歴:慢性下痢症の原因は多岐にわたるため,問診は診断においてきわめて重要な位置を占める。
❶いつからか,量,回数,性状(血液の混入,泥状,水様),臭い
❷腹痛,発熱の有無
❸服薬歴(表1図)
❹海外渡航歴
❺食事内容,摂取時間(表2図)
❻手術歴
❼家族歴
【2】身体所見
❶脱水の程度(血圧,頻脈,乏尿,口腔粘膜や舌の乾燥)
❷栄養状態
❸皮膚,頭髪,爪甲
❹腹部所見(グル音,腸管滞留ガスの有無,腹水,圧痛部位)
❺注目すべき診察所見(表3図)
【3】検査
❶血液検査(赤沈,ヘモグロビン,血清カリウム,アルブミン値):機能性下痢症での異常は3%に対して,器質性下痢症では62%と報告されている。
❷便検査(表4図)
❸下部消化管内視鏡検査
❹消化吸収試験(表5図)
原因疾患と頻度
全人口の5%程度が罹患しているという報告がある。RomeⅣ分類では機能性下痢症と下痢型過敏性腸症候群とを腹痛の有無で分類しているが,両者の区別が難しい症例もまれではない。
重要疾患の鑑別のポイント
【1】機能性疾患:機能性下痢症,下痢型過敏性腸症候群。
❶警告症状(発熱,関節痛,血便,6か月以内の予期しない3kg以上の体重減少,異常な身体所見を代表とする器質的疾患を示唆する所見)がなく,50歳未満での発症,大腸器質疾患家族歴のない場合,機能性疾患を疑う。
❷便潜血検査や便カルプロテクチン検査が陰性の場合,RomeⅣ分類によって機能性下痢症か下痢型過敏性腸症候群に分類する。
❸異なる点は腹痛の有無に加え,便形状(軟便・水様便)が下痢型過敏性腸症候群では25%以上に対し,機能性下痢症では75%であることであり,便性状の変化や便秘になることが機能性下痢症ではほとんどない。このような臨床症状の差異を起こさせる生理機能異常にも相違がある。