緊急処置
【1】肝癌破裂や特発性細菌性腹膜炎,循環・呼吸動態に影響を及ぼす大量腹水貯留の際には緊急処置を要するため,高度な出血傾向などの禁忌がない限り原因検索目的の腹水穿刺を迅速に行い,早急に診断をつける必要がある。
【2】特に,肝癌破裂では,急激な腹痛や,血圧低下などのショック症状を伴うことが多く,腹水穿刺では血性腹水を認める。
【3】確定診断後には,血行動態の安定化をはかりつつ,緊急での塞栓術などの処置の適否を検討する必要がある。
診断のチェックポイント
●定義:腹腔内には約50mLの体液が存在しているが,この生理的限度を超えて腹腔内に貯留した体液を腹水と定義する。
❶肝性腹水:肝硬変に起因する肝性腹水が最も頻度が高く,そのほかに悪性腫瘍,心性,腎性,炎症性のものがある。
❷難治性腹水:肝性腹水のなかで,厳格な塩分制限のもとに十分な利尿薬投与を行っても改善しない腹水を難治性腹水とし,その頻度は肝性腹水の約5~10%である。
【1】病歴:原因疾患の同定に問診はきわめて重要である。
❶腹水出現の経過(急性,慢性),自覚症状(腹部膨満感,浮腫,体重変化,尿量,発熱,食欲,倦怠感,体動時の呼吸困難など)を聴取する。
❷肝疾患(飲酒歴,輸血歴,肝炎歴,肝疾患の家族歴,過去の肥満の有無),心疾患,悪性腫瘍,結核などの既往についても確認する。
【2】身体所見
❶身体診察
■腹部膨満や蛙腹(仰臥位で両側腹部の膨隆を認める)が認められる。
■肝硬変では肝臓の触診所見(弾性硬,辺縁鈍)や脾腫の有無が参考になり,クモ状血管腫,手掌紅斑,腹壁静脈怒張,女性化乳房などがみられる。
■そのほか,頸静脈怒張や浮腫の有無の確認,甲状腺触知,眼球観察を行う。
❷腹水所見
■おおむね1,000mL程度を軽度,3,000mL以上を中等度の貯留とする。
■1,000mL以上の腹水貯留で,波動の触知(一方の手を側腹部に密着させ他方の手で反対側の側