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■救急医学領域の最近の動向 救急外来(ER)における感染対策(感染制御:infection control)
佐々木 淳一
(慶應義塾大学教授・救急医学)


 救急医療の最前線である救急外来(emergency room:ER)は医療機関の門戸として非常に重要である。ここにはさまざまな急性期患者や易感染宿主が来院するのみならず,諸外国からの帰国者,訪日旅行者など,世界中から感染性疾患が持ち込まれる危険性がある。その来院形態も自ら外来受診するウォークイン,現場から救急車による搬送,他医療機関からの転院搬送,海外からの医療搬送など多岐にわたり時々刻々とさまざまな脅威にさらされており,これらの患者がどのような感染リスクを持っているかを事前に知ることはきわめて困難である。すなわち,ERは患者が感染性病原体を有しているか不明の状態で,患者の受入・診療を行わなければならず,感染対策上のリスクはきわめて高いといえる。一方で,ERを受診する患者の重症度・緊急度は多彩であり,その診療には日常的に早急な判断が求められる。初療時の患者情報が乏しい中で,各種の病原体の感染が疑われる患者をいかに効率よく抽出し,患者-患者間や患者-医療従事者間の感染防止対策を講じる必要がある。また,多くの医療関係者と,多くの患者が短時間で出入りするため,感染対策を高いレベルで実行するには,厳しい条件がそろっている現場といえる。しかし,患者,医療者,病院を守るうえでERにおける感染対策はきわめて重要で妥協できるものではない。残念ながら,ERに特化した感染対策に関連するガイドラインは世界的に存在しないため,全国のERで診療にかかわる医療従事者は,多くの不安を抱えながら,行政からの通達のみを頼りとして,院内感染に関するガイドラインやマニュアルの一部を流用し,運用しているのが現状である。また,新興・再興感染症も含め救急受診を必要とする感染症は,新たな抗菌薬の開発,各種感染症関連のガイドラインの整備などにもかかわらず,むしろその勢いを増している。流行期における「インフルエンザ」のみ

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