診断のポイント
【1】心囊内に液体貯留をきたす病態はすべて原因となりうるが,救急診療では以下のような原因が多い。
❶心囊内出血(鋭的・鈍的心臓外傷,急性大動脈解離の心囊内破裂,心筋梗塞後心破裂)。
❷心臓手術後,心カテーテル検査など医原性。
❸心外膜炎(ウイルス性,細菌性,結核性),心膜腫瘍,尿毒症(比較的まれ)。
【2】心囊内出血による急性心タンポナーデは突然発症し,急速に心原性ショックが進行する。
【3】亜急性に進行する場合は息切れ,頻脈,低血圧などの心不全症状が徐々に増悪する。
【4】奇脈(吸気時に収縮期圧が10mmHg以上低下)が特徴的。
【5】心エコー検査で心囊内の液体貯留と右房・右室の拡張早期虚脱が観察できれば診断確定。
緊急対応の判断基準
【1】心不全の進行時やショック時:緊急の心囊穿刺,心囊開窓術による心囊液排出が必要。
【2】急性大動脈解離,心室破裂など心囊内出血の場合:心囊穿刺などによるタンポナーデ解除が再出血を引き起こす可能性があり,可及的すみやかに外科手術による止血を考慮する。
【3】タンポナーデを解除せずに他院に転送する場合:搬送中に輸液負荷を行い右室の拡張期圧を維持する。
症候の診かた
既往歴や発症状況から原因疾患を推定し,心タンポナーデを疑い症候をみる。
【1】息切れ,胸内苦悶,易疲労性,四肢の浮腫,動悸・頻脈,脈圧減少,低血圧:心不全の徴候。
【2】末梢の冷感,不穏,冷汗,shock index(脈拍数/収縮期圧)上昇:ショックを示唆する。
【3】奇脈(吸気時の10mmHg以上の収縮期圧低下):特徴的所見として認める。
【4】Beckの3徴(外頸静脈怒張,低血圧,心音減弱):有名だが感度は低い。
【5】心外膜炎でfriction rubを聴取することがある。
検査所見とその読みかた
【1】心エコー検査
❶心周囲に液体貯留によるecho-free spaceを認める(図1図)。液量が多