診断のポイント
【1】2か所以上の肋骨・肋軟骨骨折が上下に連続して複数本存在し,胸壁が吸気時に陥没し,呼吸時に膨隆する奇異な胸郭運動を認める。
【2】奇異性の運動は,自発吸気時の胸腔内陰圧によって生じるため,陽圧換気下では消失する。
【3】肺挫傷を伴うことが多い。
【4】胸骨骨折を伴うこともある。
症候の診かた
【1】低酸素血症:骨折によって正常な胸郭と連続性が失われた部分をフレイルセグメントというが,胸郭の不安定自体が換気および呼吸不全に直結することは少ない。フレイルセグメントが背部の際に(複数箇所の肋骨骨折が背部の場合に),仰臥位の患者では奇異性運動を通常認めない。フレイルセグメントが生じるような外力で発生した肺挫傷の合併がガス交換能を低下させて,低酸素血症を発生させていることも多い。
【2】換気不全:疼痛による1回換気量の減少と,気道内貯留物の排泄が障害されることにより,換気不全を生じる。
検査所見とその読みかた
【1】胸部X線で多発肋骨骨折を認め,肺挫傷の陰影も認めることが多い。
【2】高濃度酸素投与(O2濃度が90%以上)で動脈血中酸素飽和度(SpO2など)が90%未満の場合は気管挿管をして陽圧呼吸の適応となる。
確定診断の決め手
【1】自覚症状として胸痛と呼吸困難があり,身体所見として奇異性運動を認めることでフレイルチェストであることがわかる。さらに,血液ガス分析で低酸素血症あるいは高二酸化炭素血症を認めれば,確定診断となる。
【2】来院時に動脈血中酸素飽和度が低下していることが身体所見とともに診断確定の補助となる。
誤診しやすい疾患との鑑別ポイント
【1】緊張性気胸(→)
❶身体診察にて以下の症候を認める。
■視診における患側の壁運動低下。
■聴診における患側の呼吸音減弱。
■触診での握雪感。
■打診における患側の鼓音。
❷頸静脈怒張。
❸気管偏位。
❹奇異性運動なし。
【2】大量血胸
❶胸腔内の大量血液貯留