診断のポイント
【1】大腿骨骨折(特に骨幹部骨折)や骨盤骨折,骨髄内圧をひどく上げるような髄内釘挿入の操作が主な原因となり発生する。
【2】成年男子の骨折例で多い。
【3】発症頻度は全骨折の1〜2%以下である。開放性骨折よりも非開放性骨折,単一骨折よりも多発骨折で起きる。両大腿骨折では頻度が10倍に上昇するという報告もある。
【4】診断基準を表1図に示す。
症候の診かた
表1図の大基準でのうち最も早く出現するのは低酸素血症で呼吸困難・頻呼吸を伴い,ついで昏迷から意識障害を認める。最重症では植物状態,脳死にもなりうる。
検査所見とその読みかた
MRI T2強調画像の高信号域所見に加え,拡散強調画像(DWI)の有用性が提唱されている。点状出血は最も遅れて頭頸部,結膜,前胸部,腋窩部に出現するが,実際には頻度は少ない。
誤診しやすい疾患との鑑別ポイント
外傷後の原因不明の意識障害をみた際には,常に脂肪塞栓症候群(FES)の可能性を念頭において,早期からの治療介入を実行することが外傷治療の基本である。低酸素血症ではかなりの頻度でFESが生じている。
治療法ワンポイント・メモ
FESに対する特異的な治療法はなく,基本的には対症療法である。
【1】骨折の早期固定術は発症予防になる。
【2】低酸素血症に対して:まず酸素療法からはじめ,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に進行したら人工呼吸管理が必要となる。
【3】循環障害に対して:適切な輸液,輸血による水分バランス管理を行う。
【4】脳神経障害,血液凝固障害に対して:対症療法を行う。脳神経障害では,意識障害があれば,CTおよびMRIにて障害部位を確認し,脳浮腫があれば高浸透圧利尿薬を用いる。
文献
1)鶴田登代志:脂肪塞栓症候群─病態生理から診断,治療まで.臨麻 10(10):1357-1363,