診断のポイント
【1】アルコール依存症患者が急に飲酒できず発症。
【2】嘔気,嘔吐,漠然とした腹部症状。
【3】血液ガス分析でアニオンギャップ(AG)開大性の代謝性アシドーシス。
症候の診かた
【1】嘔気,嘔吐,非特異的な腹痛:典型的な症状であるが,しばしば胃炎,消化管出血,膵炎の併存。
【2】意識障害:通常認められないため,急性中毒,低血糖,電解質異常,敗血症,尿毒症,肝性脳症,アルコール離脱症状,てんかん発作後状態や頭部外傷の併存を疑う。
検査所見とその読みかた
【1】スクリーニング検査:血液ガス分析でAG開大性の代謝性アシドーシス,血糖値の低下~軽度上昇があれば本症を疑う。電解質異常(カリウム,マグネシウム,リンの低下),脱水症の合併が多い。
【2】尿中ケトン体(試験紙法):アセト酢酸を検出する簡易尿検査であるが,本症の初期では偽陰性を示すことが多い。
【3】血中ケトン体分画:アセト酢酸に加え,AKAで主に産生されるβ-ヒドロキシ酪酸を測定することができる。
確定診断の決め手
【1】大量飲酒後の嘔気,嘔吐によるアルコール摂取量が急激に減少する病歴。
【2】血糖値が低値~軽度上昇。
【3】AG開大性の代謝性アシドーシス(血液ガス分析)。
【4】血中β-ヒドロキシ酪酸上昇(血中ケトン体分画)。
【5】AG開大性の代謝性アシドーシスを呈する他の原因を除外。
誤診しやすい疾患との鑑別ポイント
【1】アルコール類による急性中毒
❶浸透圧ギャップ(血漿浸透圧の実測値と予測値の差)が開大していれば疑う。
❷イソプロパノールによる急性中毒では早期からケトン体が産生されるが,代謝性アシドーシスは軽度である。
❸メタノールとエチレングリコールによる急性中毒では代謝性アシドーシスが増悪する傾向にあるが,ケトン体は産生されにくい。
【2】糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
❶高血糖がなければ考えにくい。
❷糖尿病を合併したアルコール依存症
関連リンク
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