診療支援
診断

一過性全健忘
Transient Global Amnesia (TGA)
鈴木 匡子
(東北大学教授・高次機能障害学分野)

診断のポイント

【1】50歳以上。

【2】急に始まり,自然経過で24時間以内に改善する健忘。

【3】発作中は同じことを繰り返し質問する。

【4】発作中に健忘以外の認知機能障害や神経学的異常を認めない。

【5】これまでに同様の発作がない。

症候の診かた

【1】意識レベル:意識覚醒で診察に協力できる。

【2】エピソード記憶の障害:日付,場所,なぜ病院に来たかを教えても,繰り返し尋ねる。3単語を覚えさせても5分後には想起できない。逆向性健忘として,比較的最近の出来事を想起できないことはあるが,古い出来事は思い出せる。

【3】記憶以外の認知機能・神経機能の保持:認知スクリーニング検査で,見当識,単語や物品名の記憶以外に明らかな低下がない。発話,呼称,言語理解に異常はなく,明らかな運動・感覚障害を認めない。

【4】重度の前向性健忘が数時間続いた後に徐々に回復し,多くは8時間以内,長くても24時間以内に改善する。

【5】発症直前に身体活動(庭仕事など),情動変化,疼痛,入浴,性交などのストレスがあることが多い。

【6】既往に脳血管障害の危険因子や片頭痛があることが多い。

検査所見とその読みかた

【1】脳MRI:3テスラ,3mmスライスの拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)では,約70%以上の症例で海馬CA1領域(多くは一側性)に1~5mm程度の小さな高信号域を認める。発症後24~72時間にはさらにはっきりし,T2強調画像でも確認できる。この病巣は数週間以内に消失する。

【2】脳波:てんかん性異常を認めない。

【3】血液検査:ビタミンB1/B12低下,電解質異常,感染症を示唆する所見がない。

確定診断の決め手

【1】突然発症の純粋健忘症候群。

【2】画像診断による脳梗塞・脳出血,脳炎などの否定。

【3】24時間以内に前向性健忘は改善するが,発作中のことは想起できない。

誤診しやすい疾患との鑑別

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