診療支援
診断

多系統萎縮症
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Multiple System Atrophy (MSA)
下畑 享良
(岐阜大学教授・脳神経内科)

診断のポイント

【1】多系統萎縮症(MSA)は孤発性,進行性,成人発症(30歳以降)の神経変性疾患で,自律神経障害として尿失禁もしくは起立性低血圧に加え,L-ドパ反応性に乏しいパーキンソニズム(MSA-P)か,小脳性運動失調(MSA-C)を呈する。欧米ではMSA-Pが多く,わが国ではMSA-Cが多い。

【2】診断は改訂Gilman基準(2008年)に則って行う(表1)。この診断基準においてMSAは,運動機能異常(パーキンソニズム,小脳性運動失調)と自律神経障害の存在(2系統以上)が必要と定義され,診断の確からしさの高い順にdefinite(要剖検),probable,possibleに分類される。改訂Gilman基準の診断の「支持する徴候(red flag)」と「支持しない徴候」を丹念に確認する。

【3】しかしこの診断基準は,エビデンスではなく,エキスパートオピニオンに基づいて作成されたものであり,MSAと類似する臨床像を呈する疾患(MSA mimics/look-alike)もあることから,臨床診断には限界があることを認識する必要がある。

【4】頭部MRIでは特徴的な所見を呈するが,それらもMSAに特異的ではなく,他の疾患でも認められることがある(MSA imaging mimics)。

【5】以上の理由で,MSAの臨床診断は従来考えられてきたより難しく,神経内科専門医が行う必要がある。

緊急対応の判断基準

【1】緊急対応を要する症候:高度の自律神経障害(尿閉・イレウス・頻回の起立性低血圧),体重減少や誤嚥性肺炎の原因となる嚥下障害,尿路感染症,重症の睡眠関連呼吸障害,自身やベッドパートナーに危害が及ぶ重症のREM睡眠行動異常症がある。

【2】睡眠関連呼吸障害:睡眠中に突然死をきたす危険性があることから,特に慎重な病状説明と検索(夜間酸素飽和度モニタリング,終夜睡眠ポリソムノグラフィー

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