診療支援
診断

陳旧性心筋梗塞
Old Myocardial Infarction
辻田 賢一
(熊本大学大学院教授・生命科学研究部循環器内科学分野)

診断のポイント

【1】冠危険因子の存在(重複することが多い)。

【2】無症状であることが多いが,高齢者に多く慢性心不全の一因となる。

【3】左室リモデリングによる慢性心不全症状や不整脈の症状を認める。

【4】急性心筋梗塞の既往。

【5】残存虚血が狭心症や無症候性心筋虚血を引き起こす。

緊急対応の判断基準

【1】心筋梗塞慢性期合併症としての,心不全・不整脈・残存虚血の急性増悪を認め,自施設での緊急対応が困難な場合,高次医療機関へ搬送する。

【2】移送中のバイタル変化に備え,心電図モニターの装着,末梢静脈ラインの確保,酸素投与の準備のうえ,移送を行う。

症候の診かた

【1】典型的胸部症状の欠如:陳旧性心筋梗塞では梗塞巣心筋はすでに壊死し,線維化・組織修復されているため梗塞巣に起因する胸痛症状は認めない。

【2】合併する心不全・不整脈の症状:心筋梗塞に伴い,心機能は低下し,左室リモデリングが進展するため,慢性心不全徴候(労作時息切れ,易疲労性,浮腫など)や不整脈に伴う眼前暗黒感,失神,ふらつきが出現する。

【3】残存虚血:梗塞巣周囲に生存心筋の残存がある場合や冠動脈残存狭窄がある場合,狭心症や無症候性心筋虚血を生じる。

検査所見とその読みかた

【1】心電図検査:梗塞部位に一致して異常Q波,R波減高,陰性T波を認める(表1)。しかし,発症後徐々にR波が増高し,数か月または数年で異常Q波を認めなくなる症例もある。高位後壁梗塞の場合,後方(背中側)への起電力が減弱するため,V1誘導で陽性T波を伴うR波の増高(R/S>1)を認める。心室瘤が形成された場合には持続するST上昇が認められる。

【2】心エコー検査:梗塞責任血管の支配領域に一致して梗塞部の心室壁菲薄化,壁運動異常(asynergy)を呈する。

❶壁運動異常はその程度によってhypokinesis(低収縮),akinesis(無収縮),dyskinesis(奇

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