診断のポイント
【1】大動脈弁,僧帽弁,肺動脈弁,三尖弁おのおのに狭窄と閉鎖不全がある。つまり弁膜症には8つの疾患が含まれる。
【2】動脈弁(大動脈弁,肺動脈弁)狭窄と房室弁(僧帽弁,三尖弁)閉鎖不全では収縮期心雑音,動脈弁閉鎖不全と房室弁狭窄では拡張期心雑音を聴取。
【3】房室弁に器質的異常を伴わず,左室機能障害による機能性僧帽弁閉鎖不全,右室機能障害による機能性三尖弁閉鎖不全という病態に遭遇することは多く,この場合,弁膜症は主病態ではなく続発症である。
【4】臨床的に有意な弁膜症としては大動脈弁狭窄,僧帽弁閉鎖不全が多く,ついで大動脈弁閉鎖不全の頻度が高く,55歳以降に発症率は上昇する。成人では,器質的肺動脈疾患,器質的三尖弁疾患を認めることは少ない。
緊急対応の判断基準
薬物治療抵抗性の心不全を伴う場合,カテーテル治療/外科手術が可能な高次医療機関へ搬送する。
症候の診かた
【1】心不全症状・所見:労作時息切れや浮腫などを主訴として医療機関を受診することが多い。ただし,心不全症状は多くの心疾患で認めうる症状であり,弁膜症に特徴的な症状ではない。
【2】失神や胸痛:大動脈弁疾患では認めることがある。狭心症や不整脈でも認める症状であり,弁膜症に特徴的な症状ではない。
【3】心雑音:多くの症例で聴取される。重症度が増すと雑音が強くなる傾向はあるものの,弁膜症が進行し心機能障害が高度になると,逆に心雑音が小さくなるので,雑音の強弱のみで病態の軽重を評価すべきではない。
検査所見とその読みかた
【1】心電図,胸部X線:心疾患のスクリーニングとして必ず行われる検査であるが,弁膜症に特徴的な所見はない。
【2】血中脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度:弁膜症により心負荷が増大すると,BNPレベルは上昇する。
【3】心エコー検査
❶心雑音を聴取したら,心電図や胸部X線における異常所見の有無にかかわらず経胸壁