[Ⅰ]急性心膜炎
診断のポイント
【1】感冒様症状と吸気時に増強する胸痛。
【2】心電図上,広範なST上昇。
【3】白血球増加,CRP上昇を伴う。
緊急対応の判断基準
疑われた場合,専門医のいる病院に搬送するほうが望ましい。
症候の診かた
【1】胸痛:胸痛は吸気時や仰臥位で増強し,前傾姿勢にて軽減する。
【2】上気道炎様症状:発熱が先行することが多い。
【3】聴診所見:心膜摩擦音が特徴的。前傾姿勢で聴取しやすい。短期間で消失したり,再聴取したりする。
【4】呼吸困難:心筋炎を合併した場合に増強する。
検査所見とその読みかた
【1】スクリーニング検査
❶軽度のリンパ球増多を伴う白血球増多やCRP上昇。明らかな心筋炎が合併していなくても,CK-MBやトロポニンは軽度上昇。
❷合併症のない心膜炎の場合,胸部X線写真は通常,正常である。肺の浸潤影や胸水がみられることもある。
【2】心電図検査:広範囲でST上昇。所見の変動が大きいので経時的なフォローが必要。PR部分の低下が唯一の心電図所見のこともある。
【3】心エコー:心囊水を認めることがある(図1図)。ただし,症例ごとに異なり,また検査の時期でも変わるため心囊液の有無だけで診断してはいけない。
確定診断の決め手
【1】特徴的な胸痛(吸気時に増強)。
【2】心電図所見(広範なST上昇)。
誤診しやすい疾患との鑑別ポイント
【1】急性心筋梗塞(→)
❶前胸部の絞扼感。
❷冠動脈灌流域に相当する誘導でST上昇や心エコー上,壁運動の低下がある。
❸顕著なCK-MBやトロポニンの上昇。
【2】肺血栓塞栓症(→)
❶突然の呼吸困難が主訴。
❷深部静脈血栓症の所見(下腿浮腫),心電図でSⅠQⅢTⅢパターン,心エコーにて右室負荷の所見などを伴う。
❸造影CTが重要。
【3】大動脈解離(→)
❶激烈な胸痛や背部痛。
❷造影CTが診断に有用。
【4】気胸(→):胸部単純X線写真が有用。