診断のポイント
【1】視・触診で甲状腺腫瘤の位置を把握する。触れないというのも所見である。
【2】頸部超音波(US)検査が最も精密な甲状腺画像診断である。
【3】甲状腺細胞診による甲状腺乳頭癌の診断精度は高い。
【4】高齢者のほうが悪性度の高い甲状腺腫瘍が多い。
【5】頸部US検査で偶然発見される甲状腺腫瘍が増えている。
緊急対応の判断基準
【1】腫瘍による気道狭窄の進行が疑われたとき:喘鳴(気道狭窄音)が聞こえる。甲状腺腫瘍が気管前面にある場合,緊急気管切開が非常に難しいことがある。安全に気道確保が可能な病院へ緊急搬送することを考慮する。
【2】血痰が大量のとき:その原因が気管内に浸潤した甲状腺腫瘍と考えられる場合,気道確保,止血処置のできる施設へ搬送することを考慮する。
【3】急速に増大してきた甲状腺腫瘍で甲状腺未分化癌を疑う高齢者の場合,迅速な診断・治療開始が可能な施設への紹介を考慮する(図1図)。
症候の診かた
【1】触診
❶甲状腺腫瘍の性状だけでなく,本人の体型,甲状腺の位置,皮膚の状態,頸椎の可動性も観察する。一般的に女性は甲状腺が頭側に位置しており男性はより足側に位置している。肥満体,筋肉質,いかり肩では甲状腺は触れにくい。細胞診や手術時の体位を考慮し,頸部を後方伸展できるか確認しておく。
❷甲状腺だけでなく,同時に両側頸部リンパ節腫脹の有無も触診を行う。
【2】問診:嗄声があると思ったときは,声の変化や嚥下状態の問診もしっかり行う。
【3】家族歴,放射線被曝歴を尋ねる。
検査所見とその読みかた
【1】US検査
❶腺腫様甲状腺腫のUS所見:境界明瞭で内部に囊胞部分を伴い,充実性部分のエコーレベルは正常甲状腺と同じくらいで,結節は多発することが多い。
❷甲状腺濾胞性腫瘍のUS所見:境界明瞭な血流に富んだ充実性腫瘍のことが多い。
❸甲状腺乳頭癌のUS所見:形状不整,境界が不明瞭な充実性腫瘤で,エコーレベ