診断のポイント
【1】経口感染症の1つである。
【2】コレラ毒素を産生するコレラ菌(Vibrio cholerae O1およびO139)が原因菌である。
【3】旅行者下痢症の1つであり,熱帯・亜熱帯のコレラ流行地域への旅行者に多い。
【4】近年,わが国では年間10例前後の患者数である(表1図)。
【5】下痢を主症状とし,便の性状は「米のとぎ汁様」と形容されている。
緊急対応の判断基準
【1】重症例では,大量の下痢便の排泄に伴い高度の脱水状態となり,血圧低下,皮膚の乾燥と弾力の消失,意識消失,嗄声あるいは失声,乏尿または無尿などの症状が出現し,低カリウム血症によるけいれんを認めることもある。
【2】3類感染症であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
症候の診かた
【1】潜伏期間は数時間~5日間といわれるが,通常は1日前後である。
【2】近年のエルトール型コレラは軽症の水様下痢や軟便で経過することが多い(表2図)。
【3】下痢が主体の腸管感染症であり,発熱はない。
【4】重症例
❶前述の「米のとぎ汁」様の便臭のない水様便を1日数十Lも排出し,嘔吐を繰り返す。その結果,激しい脱水と電解質の喪失,チアノーゼ,体重減少,頻脈,血圧低下,皮膚の乾燥や弾力性の喪失,無尿,虚脱などの症状,および低カリウム血症による腓腹筋のけいれんが起こる。
❷眼が落ち込み頰がくぼむいわゆる“コレラ顔貌”が重症例の特徴である(図1図)。
【5】胃切除を受けた人や高齢者では重症化することがあり,死亡例もまれにみられる。
検査所見とその読みかた
【1】脱水,電解質異常に注意する。特に,血清カリウム,カルシウム,ナトリウムの低下とアシドーシスに注意する。
【2】脈拍は切迫・微弱となり,血圧は低下する。
確定診断の決め手
【1】コレラ菌の検出:患者便からコレラ毒素を産生するO1またはO139血清型のコレラ菌を検出することによって