診断のポイント
【1】急に発症する激しい腹痛と水様便。
【2】同様の症状を呈する患者の存在。
【3】発熱は軽度。
【4】血便が少し遅れて出現。
緊急対応の判断基準
【1】小児や高齢者で顔色不良・乏尿・浮腫が出現した場合は,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)の併発を念頭に,直ちに高次医療機関に搬送する。
【2】意識障害は脳症の併発の可能性があるため,高次医療機関への搬送を検討する。
症候の診かた
【1】腸管出血性大腸菌(EHEC)が原因の食中毒であり,複数の患者が発生することが多い。
【2】腸管内に入ったEHECがベロ毒素を産生して腹痛と水様下痢をきたすため,潜伏期間は3~8日と幅がある。
【3】大腸内での毒素が症状の主因となるため,発熱や嘔吐の頻度は低い。
【4】ベロ毒素の大腸粘膜障害は血便の原因となる。下痢の発症から1日程度遅れて血便が出現する。
【5】下痢症状出現の数日~2週間(多くは1週間以内)後に,6~7%の頻度でHUSを併発する。小児や高齢者での顔色不良・乏尿・浮腫に注意を払う必要がある。HUSの致死率は1~5%とされている。
検査所見とその読みかた
【1】糞便検査:大腸菌の分離・同定に加え,ベロ毒素産生能を証明して診断する。
❶大腸菌は細胞壁由来のO抗原と,鞭毛由来のH抗原の組み合わせによって血清型別分類される。
❷わが国の場合,EHEC感染症を起こす血清型で最も多いのはO157で,O26とO111が次ぐ。これらの血清型大腸菌のすべてがベロ毒素を産生するわけではない点に注意が必要である。
❸O157のうち,HUSを併発するのはH7とHマイナスの2種類である。
【2】腹部CT:右下腹部痛を呈する小児の腸重積,成人の右側憩室炎と急性虫垂炎との鑑別を要する場合がある。腹部CTが有用である。
確定診断の決め手
【1】突然の激しい腹痛と水様下痢。
【2】便培養検査でのベ