腸管寄生の線虫には,アニサキス・テラノーバ幼虫(→)および糞線虫(→)以外に,回虫,鉤虫,鞭虫,東洋毛様線虫,蟯虫,旋毛虫,フィリピン毛細虫などがある。前四者は土壌媒介性の線虫症を引き起こし,蟯虫と合わせて衛生状態の向上とともに激減したが,日常の診療で遭遇する可能性がある。旋毛虫症は,集団感染例がごくまれにある。フィリピン毛細虫症はきわめてまれな輸入寄生虫症である。
診断のポイント
【1】多くの症例は,腹痛,下痢などの特徴的所見に乏しい。
【2】画像診断もしくは内視鏡検査で偶発的に虫体を見いだすことがある。
【3】開発途上国からの移住者や,確率はより低下するが国内では農村部在住あるいは無農薬で栽培された野菜を食している場合に感染の可能性がある。
【4】鞭虫症,蟯虫症は重症心身障害者施設,高齢者施設で集団発生している場合がある。
緊急対応の判断基準
【1】回虫の成虫が多数塊状にもつれてイレウスを起こした場合や総胆管などに迷入した場合に,急性腹症として開腹手術適応となることがある。
【2】旋毛虫症は多数感染で呼吸困難,心筋炎などの重篤症状をきたすことがある。後述するように食歴と臨床経過から旋毛虫症を疑い,まず免疫抑制薬によって過剰反応を抑える。
症候の診かた
【1】多くの場合は少数寄生で無症状であることが多い。
【2】開発途上国からの移住者あるいは国内の農村部在住者,無農薬で栽培された野菜を食している者で,貧血に下痢を伴う症状を呈する場合には便検査を実施する。
【3】便中の虫様異物として患者が回虫を持参することがある。
【4】蟯虫症では,肛門周囲にかゆみを自覚する。殿部をかゆがる場合には肛囲検査を実施する。
【5】クマなどの肉を加熱不十分なまま喫食したのちに[さらに知っておくと役立つこと]に示す臨床経過を呈する場合は旋毛虫症を疑い,血清診断を実施する。
検査所見とその読みかた
以下の便検査,便培養法によっ