診断のポイント
【1】60歳以上。
【2】免疫抑制薬で治療中ないしHTLV-1キャリア。
【3】原因不明の慢性の腹部症状。
【4】消化管機能障害とともに急速に進行する低栄養。
【5】南九州から奄美・沖縄地方の出身(まれに例外あり)。
緊急対応の判断基準
喀痰または尿沈渣から糞線虫幼虫が検出される,あるいは皮下点状出血を認める場合は過剰感染症候群(hyper infection syndrome:HIS)ないし播種性糞線虫症(disseminated strongyloidiasis)と判断できるので,ICUのある中核病院へ移送する。
症候の診かた
【1】全身症状
❶重症例では食欲低下,低栄養状態になり,比較的急激にるい痩が進行することがある。
❷背景に,抗癌剤または免疫抑制薬の投与,あるいはHTLV-1感染があることがある。
【2】消化器症状:軽症では無症状だが,中等症以上では慢性再発性の軟便・下痢がほぼ必発である。重症化すると嘔吐,腹部膨満感も出現し,消化管の機能障害(吸収障害,蛋白漏出性胃腸症,麻痺性イレウス)を呈する。消化管出血も起こしうる。
【3】呼吸器症状
❶重症例では幼虫の肺移行によりびまん性の出血性肺炎を起こす。進行すれば呼吸不全となる。
❷呼吸器症状があれば過剰感染症候群と判断する。
検査所見とその読みかた
【1】一般血液検査
❶通常の感染では30~70%の症例で好酸球増多がある。しかしながら,重症になるほど好酸球増多はみられなくなる。
❷血液生化学では,重症度に応じて,種々の程度の貧血,低蛋白血症,低コレステロール血症がみられる。
【2】抗寄生虫抗体スクリーニング検査:感度は高いが偽陽性が多い。糞線虫症を疑うのであれば,必ず便検査を行うこと。
【3】腹部X線検査:重症例ではしばしば小腸ガス像,麻痺性イレウスをみる(図1図)。
【4】胸部X線検査:重症例では両肺にびまん性の浸潤影を認める(図2図)。