本項では,成虫が消化管に寄生するいくつかの条虫症と,幼虫が組織に寄生するマンソン孤虫症(マンソン裂頭条虫の幼虫寄生)について述べる。
診断のポイント
条虫類は種ごとに特有な生活環で維持されている。感染の背景を探る食歴・居住歴・旅行歴についての問診はきわめて重要で診断に直結する(表1図)。日本海裂頭条虫症・マンソン孤虫症・エキノコックス症(多包虫症)は日本国内で感染がみられるが,他の条虫症はほぼ外国からの輸入例と考えてよい。
【1】消化管に成虫が寄生する場合:感染者は無症状に経過することが多いが,肛門から自然排出された片節に気付いて,または片節が肛門から離脱する際の不快感で医院を訪れる。片節を調べることで,原因寄生虫が特定できる。検便も診断に欠かせない。また,自覚症状が全くなく,何かの折に条虫感染が偶然発見されることもある。
❶日本海裂頭条虫症
■肛門から“きしめん”に似た扁平な片節が垂れ下がる。この特徴とサクラマス・サケ(トキシラズ)の寿司や刺身の食歴から診断できる。
■排泄された片節は横幅が約15mmで縦幅よりも広く,いくつも連結しており,片節ごとに中央に虫卵の詰まった子宮が肉眼的に識別できる(図1a図)。
■産出される虫卵が非常に多く,検便(直接塗抹法)で虫卵が容易に検出できる。虫卵は楕円体(60~70×40~50μm)で中身は未熟であり,一端に小蓋がある(図1b図)。
❷無鉤条虫症
■肛門から片節が自力で這い出し,伸縮して活発に動く。この特徴と生や加熱不十分の牛肉の食歴から診断できる。
■離脱した片節は縦幅が約20mmで横幅よりもかなり長く,厚くて不透明で個別に独立しており,片節が数個連結しているものもある(図1c図)。片節の左右どちらかの縁の中央に生殖口が突出している。
■虫卵は球体(30~40μm)で放射状の幼虫被殻の内部に六鉤幼虫がみられる(図1d図)。
❸アジア条虫症:片節の運動