診療支援
診断

抗うつ薬中毒
Antidepressant Poisoning
岩崎 泰昌
(国立病院機構呉医療センター・救命救急センター部長)

診断のポイント

【1】家族や同伴者,救急隊からの病歴聴取にて,抗うつ薬の大量服用の可能性を確認する。

【2】心電図異常(QRS時間の延長,QTc延長,心室性不整脈,房室ブロック),低血圧の出現。

【3】けいれん発作の出現。

緊急対応の判断基準

【1】ショックや心電図異常に対しては急速輸液を行い,炭酸水素ナトリウムを投与する。

【2】輸液にも炭酸水素ナトリウム投与にも反応しないような難治性低血圧の場合には,ノルアドレナリンやドパミンの持続静注を開始する。

【3】けいれん発作に対しては,ジアゼパムを使用する。

症候の診かた

【1】抗うつ薬中毒の症状:服用した抗うつ薬の種類により,症状や毒性が異なる。代表的な抗うつ薬を表1に示す。

❶共通する症状:意識障害や血管拡張に伴う血圧低下。

❷第1世代三環系抗うつ薬(イミプラミン,クロミプラミン,アミトリプチリンなど):心電図異常,不整脈が出現しやすい。

❸第2世代抗うつ薬(三環系:アモキサピン,四環系:マプロチリンなど):心毒性は強くはないが,中枢神経系に対する毒性が強く,難治性のけいれんが出現しやすい。

❹SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬),SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):薬理作用の選択性が高く,大量服用を行っても中枢神経毒性や心毒性は弱いため,重篤な症状を起こすことは少なく,セロトニン症候群が最もよくみられる症状である。

【2】心電図異常

❶Na+チャネル阻害作用により生じる。

❷QRS時間延長(100ミリ秒以上),QTc延長(430ミリ秒以上),PR時間延長,非特異的ST変化,T波の異常,房室ブロックに伴う徐脈性不整脈や洞性頻脈,上室性頻脈などが認められる。

❸重症例では,心室細動や無脈性心室頻拍が生じることがあり,心電図モニタリングや除細動器の準備が必要である。

【3】けいれん:GABAA受容体の阻害作用によって引き起こされ,

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