診断のポイント
有機溶剤は,他の物質を溶かす性質をもつ有機化合物の総称で,塗装,洗浄,印刷などに使用されるため,建設業,製造業従事者が中毒対象患者となりうる。診断では問診が最も重要である。
【1】有機溶剤を使用する職場か。
【2】使用している有機溶剤名。
【3】症状が作業に関連しているか,一過性か,持続性か。
【4】現場の換気状況,呼吸用保護具使用の有無。
【5】薬物乱用関連の場合は症状と発見状況。
緊急対応の判断基準
【1】急性中毒で意識障害(意識消失)を呈する場合:蘇生対応(気道確保を含む酸素投与,ルート確保,モニタ装着,必要なら昇圧薬使用)をしつつ,ICUで集学的治療を行うか,高次対応病院へ搬送。基本的には対症療法を施行する。
【2】自殺企図などでの有機溶剤の経口摂取:揮発性があるため,胃洗浄は禁忌である。
症候の診かた
体内への取り込みは,吸入ならびに経皮的吸収が主な経路である。
【1】急性中毒:換気のない閉鎖された空間で,高濃度の蒸気を吸って,頭痛,めまい,吐き気を発症したエピソードで,有機溶剤を扱っているなら,比較的容易に診断できる。
【2】慢性中毒
❶症状は多彩であり,またあいまいであることから,一般外来では不定愁訴として対応されがちである。
■多彩な症状:頭痛,めまい,悪心・嘔吐,食欲不振,倦怠感,上気道や目の刺激症状,心悸亢進,手足のしびれ,目のかすみなど。
■肝・腎障害:肝酵素上昇,血尿,蛋白尿。
■造血器障害:貧血など。
❷有機溶剤中毒も念頭において,特に職業歴,仕事環境の詳細な問診が必要である。
検査所見とその読みかた
【1】急性,慢性中毒ともに,まずはスクリーニングとして,採血,尿検査を行う。
【2】必要に応じて,CT,MRIも含めた画像検査も追加する。
【3】尿中に排出される代謝産物の測定も有用である。
確定診断の決め手
【1】前述した自覚・他覚症状があり,器質的疾患が否定され,有機溶剤に