診断のポイント
【1】アルコール類は身近でありさまざまな用途で使用される。アルコール自体の作用は中枢神経系の抑制が主であるが,代謝産物が毒性の主体である。
【2】服用歴,曝露歴を聴取する。原因不明の意識障害の場合,アルコール類による中毒も診断の選択肢の1つである。
【3】揮発性のため特有の臭気がある。身体所見としてメタノールは少量摂取で視神経異常をきたすことがある。
【4】血液検査では,アルコール自体による血中浸透圧の上昇により,浸透圧較差(osmolarity gap)がみられる。
【5】代謝が進むと,メタノールではギ酸,エチレングリコールではグリコール酸,グリオキシル酸などの代謝産物により,血液ガス分析で,代謝性アシドーシスの進行,アニオンギャップ(anion gap)の開大がみられる。
緊急対応の判断基準
【1】メタノールやエチレングリコールでは代謝産物が代謝性アシドーシスだけでなく,臓器障害を引き起こすため重篤化する。自殺企図が多いが,集団発生の報告もある。
【2】メタノール中毒,エチレングリコール中毒が疑われる場合,集中治療の可能な高次機能病院への搬送を考慮する。
症候の診かた
【1】エタノール・メタノール:吸収が速く,30~60分で血中濃度はピークとなり,すみやかに中枢神経系に影響し,意識障害をきたす。メタノールは頭痛からめまい,耳鳴り,また視神経異常として雪原のような視覚異常(snow field vision)をきたすことがある。
【2】エチレングリコール:1~4時間で血中濃度が上昇するが,服用からの時間により症状が異なる。
❶12時間以内:消化管粘膜への直接障害による腹痛や嘔吐,中枢神経系の異常による意識障害,けいれんなどがみられる。
❷12~24時間:代謝産物の臓器障害から急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)などの