本項では臨床的に重要な,水銀,ヒ素,鉛,カドミウムの中毒について解説する。
診断のポイント
【1】重金属とは比重が4以上の金属のことであり,鉄以上の比重をもつ金属の総称である。
【2】重さのみによる分類のため,非常に雑多な化学的性質・物理的性質をもった金属が含まれる。
【3】中毒の原因物質により,症状や徴候が異なるため,原因物質の同定が重要で,患者のみならず,救急隊や家族,関係者からの情報収集を行い,重金属や関連化合物に対する曝露歴を調べる必要がある。
緊急対応の判断基準
【1】他の中毒と同様に,バイタルサインに異常がある場合には,安定させるための一般的な対応が必要となる。
【2】複数の患者が同時に中毒症状を発症している場合には,周辺の医療機関や保健所と情報共有をしながら,原因の特定を行う。
【3】重金属中毒の疑いがあり,血中濃度の測定や解毒・拮抗薬の投与が必要な可能性がある場合には,救命救急センターなど特異的な治療ができる施設へ転送する。
症候の診かた
【1】水銀
❶金属水銀の経口摂取による中毒はまれで,気体の吸入により中毒となる。
❷金属水銀を吸入すると,急性期には発熱,悪寒,流涎,悪心・嘔吐,下痢,嚥下障害,呼吸困難を呈する。
❸慢性の金属水銀中毒で特徴的なのは中枢神経症状で,頭痛,視野障害,幻覚・妄想,健忘,運動失調,意識障害などがみられる。
❹無機水銀に特徴的な中毒症状は,消化管の腐食と腎障害である。悪心・嘔吐,上部消化管出血,消化管穿孔,出血性下痢,急性尿細管壊死,腎不全などがみられる。
❺有機水銀中毒は,水産生物の食物連鎖によって,大型の肉食魚類の生体内に蓄積したものを慢性的に摂取したことで起こる。
■経口摂取後数週間~数か月で錯視,進行性視野障害,聴力障害,運動失調などの中枢神経障害が生じる。
■妊娠中に摂取すると,胎盤を通過して胎児に蓄積することにより,出生児の精神遅滞や脳性麻痺の原因と