診断のポイント
【1】酸・アルカリ物質は身近な家庭用・工業製品(浴室用洗剤,カビとり剤,排水パイプ用洗剤,トイレ用洗剤・洗浄剤,漂白剤,家具用・洗濯槽用洗剤など)に含まれる。製品ごとに含まれる濃度は異なる。
【2】自殺企図,あるいは小児・高齢者の誤飲による経口摂取や皮膚・眼球への接触,まれに誤嚥による局所症状が主となる。
【3】損傷の程度は濃度,pH,接触時間や接触面積に影響される。経口摂取の場合は食道の通過に影響する性状,粘稠度や胃内に及んだあとの胃内容物の有無に影響される。
【4】皮膚や粘膜への接触の場合,アルカリのほうが,融解損傷のため深部まで損傷をきたしやすい。経口摂取の場合は,酸は胃損傷,アルカリは食道損傷を起こしやすい。
【5】酸・アルカリともに,十二指腸よりも肛門側に損傷を起こすことは少ない。
症候の診かた
酸・アルカリを含む腐食物質の接触による化学損傷である。
【1】経口摂取の場合
❶固体や粉状:口腔内や喉頭,咽頭の損傷による口腔痛,咽頭痛,嗄声,喘鳴などを認め,損傷が強い場合は喉頭浮腫による気道閉塞もきたしうる。
❷液体
■消化器
・食道や胃に対する化学損傷によって悪心・嘔吐,胸痛,腹痛などをきたし,損傷が強い場合は食道・胃を中心とした消化管出血,消化管穿孔や消化管狭窄をきたす。
・特に水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や水酸化カリウム(苛性カリ)は,数秒で消化管,粘膜全層の組織障害をきたす。
■眼球
・充血,疼痛,流涙,眼瞼腫脹などをきたし,重篤な場合は角膜損傷,結膜損傷,視力障害を呈する。
・工業製品としては,セメントが眼球に張り付くと,溶けてアルカリによる角膜化学腐食の原因となる。
■皮膚:瘙痒感,疼痛,紅斑,疱疹,水疱など刺激性接触性皮膚炎の症状や,重篤な場合は皮膚の化学損傷による化学熱傷をきたす。
■呼吸器
・誤嚥した場合は喉頭,気管支の粘膜損傷や肺胞損傷による化学性肺炎の症状を呈する