診療支援
診断

工業用品中毒
††
Industrial Chemistry Poisoning
織田 順
(東京医科大学主任教授・救急・災害医学)

[Ⅰ]シンナー

診断のポイント

【1】アルコールや油をよく溶かす。トルエン,キシレン,メタノールなどを含む。

【2】塗装工場や部品工場で曝露し受傷することが多い。

【3】高揚感を得るために自分で吸入する事例もある。

【4】複数の傷病者発生や二次被害に注意する。

症候の診かた

【1】少量の吸入:高揚感や多幸感などの興奮性作用を示す。頭痛や悪心,めまいを伴うことがある。

【2】多量の曝露:呂律障害や幻覚,振戦を認める。

【3】重症例:けいれん,昏睡,呼吸抑制を呈し死に至る。致死性の不整脈を生じることがある。

検査所見とその読みかた

【1】一般的な血液検査では特徴的な所見はない。

【2】慢性中毒では遠位尿細管性アシドーシスをきたし,時に低カリウム血症を呈する。

確定診断の決め手

 受傷状況に加えて,トルエン中毒では尿中に馬尿酸が,キシレン中毒ではメチル馬尿酸が検出されることが診断の補助になる。

誤診しやすい疾患との鑑別ポイント

 受傷状況がわからない状況からの確定診断は難しいことがある。

[Ⅱ]灯油

診断のポイント

 小児の誤飲のほか,認知機能の低下した高齢者の誤飲による急性中毒が多い。

症候の診かた

【1】受傷状況から疑うことが重要である。

【2】灯油臭を感じる。

【3】経口摂取すると悪心,嘔吐,下痢など消化管粘膜刺激症状を呈する。

【4】誤嚥した場合は化学性肺炎となり,時に急性肺損傷(acute lung injury:ALI),急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)など重篤化する。

検査所見とその読みかた

【1】一般的な血液検査では特徴的な所見はない。

【2】慢性中毒では遠位尿細管性アシドーシスをきたし,時に低カリウム血症を呈する。

確定診断の決め手

【1】灯油曝露のエピソードを重視せざるを得ない。

【2】催吐や胃洗浄は禁忌であり,胃内容物の確認はできない。

【3】嘔吐す

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