[Ⅰ]手関節骨折
橈骨遠位端骨折(全骨折の6分の1を占める)と手根骨骨折に分けられる。
診断のポイント
【1】手関節の疼痛,腫脹,変形を主訴とする。外傷が主な原因であり,まれに骨腫瘍(骨巨細胞腫)による病的骨折がある。転倒の際に伸展した手をついて受傷する関節外骨折伸展型(Colles骨折)が大半を占めるが,バイクなどで手関節を屈曲して受傷する関節外屈曲型(Smith骨折)や関節内骨折(Barton骨折,関節面多骨片骨折)もある(図1図,2図)。
【2】全年齢に発生し,10歳以下と60歳以上の二峰性を示す。10歳以下では低エネルギー損傷が多く,骨癒合が早くリモデリングも良好である。青壮年ではバイク事故などの高エネルギー損傷により軟部組織損傷を合併することが多い。高齢者では骨粗鬆症に合併する脆弱性骨折で低エネルギー損傷が多い。整復は比較的容易だが,整復後の転位を生じやすい(図3図)。
【3】肢位
❶橈骨遠位端骨折は健側手またはシーネで支えて来院する。
❷同様の受傷機転(手関節背屈位)による舟状骨骨折や月状骨周囲骨折,捻挫では疼痛は軽度で,支えを必要とせず翌日以降に来院することもまれではない。
【4】腫脹・疼痛:骨折では受傷直後は限局した圧痛と腫脹が特徴的だが,数時間後にはびまん性の腫脹を示す。
【5】X線検査が必須である。
緊急対応の判断基準
【1】開放骨折:golden time(6~8時間)以内のデブリードマン,洗浄が必須であり,内固定や創外固定を要することが多い。
【2】手根管症候群
❶骨折による腫脹や手関節屈曲位の固定により生じ,放置すると複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)をきたしやすい。そのため,手関節屈曲位でのギプスは推奨されず,高度屈曲位でギプスが装着されている場合は直ちに除去する。
❷手根管開放術による正中神経の除圧が必要な場合