診断のポイント
【1】60歳以上の男性に多い。
【2】立位や腹圧をかけると膨隆し,仰臥位で消失する。
【3】必ずしも鼠径部痛を伴わない。
【4】画像診断で下腹壁動静脈の外側にヘルニア門が認められる。
【5】対側の合併も見逃さないようにする。
緊急対応の判断基準
【1】非還納性ヘルニアのうち,嵌頓(急性症状あり),絞扼性(血流障害あり)は緊急手術の適応である。
【2】絞扼性が疑われる非還納性ヘルニアを還納した場合,入院経過観察とする。
症候の診かた
【1】鼠径部膨隆(図1図,2図):診察は立位で行う。膨隆は咳嗽で増大し,圧迫で縮小する。
【2】指診
❶還納後に陰囊側から皮下に示指を挿入することで外鼠径輪を明瞭に触知できる。鼠径管内の状態を把握できることもある。
❷乳幼児では,鼠径部でヘルニア囊の擦れる感覚をsilk signという。
【3】自覚症状
❶無症状のこともある。
❷歩行や腹圧により鼠径部違和感,鼠径部痛を生じうる。
❸ヘルニア内容の大網や腸間膜の牽引で上腹部痛を認めることもある。
❹嵌頓時は激痛を伴う。
検査所見とその読みかた
【1】CT(図3図)
❶腹臥位で上腹部と大腿部に枕を置き,ヘルニアが突出した状態で撮影する。
❷外腸骨動静脈から腹直筋に向かう下腹壁動静脈を同定し,ヘルニア門がその外側であれば外鼠径ヘルニアである。
【2】エコー
❶ドプラエコーで下腹壁動静脈を同定し,ヘルニア門との位置関係をみる。
❷CTと異なり,体位を変えたり腹圧をかけたりして検査できる利点がある。
確定診断の決め手
【1】理学的所見のみで鼠径ヘルニアの診断は可能であるが,外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアの鑑別にはCT,エコーなどの画像診断を要する。
【2】しかし臨床的にこれらを区別する意義は必ずしも高くない。
誤診しやすい疾患との鑑別ポイント
【1】大腿ヘルニア
❶膨隆は鼠径靱帯より尾側に起こりやすい。
❷膨隆はあまり大きくない。
【2】Nuck管水腫
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