【定義】
記憶は外界の刺激を一定時間保持し,それを反応として表す機能である.記憶の障害を記憶障害あるいは健忘とよぶ.健忘症候群は,理念的には,知的機能・注意機能・言語機能が正常であるにもかかわらず顕著な記憶障害を示す症候群である.
記憶は複数の機能に分けられ,用語が多く,臨床神経学と認知心理学では用語が異なり,複数の日本語訳がある.臨床的には長期記憶が重要であるのでその分類を図1図に示す.本項では,精神科診療に必要な事項に限り一般的な用語で説明する.
【記憶の分類】
A.記憶の3過程
記憶過程は,①登録registration,②把持retention,③再生recallの3つからなる.
登録(符号化)は,新しい情報が取り込まれる段階である.記銘とよぶことがあるが,「記銘という語には覚え込むという意味があり適切ではない」ともいわれる.視力・聴力の障害,失語・失認,注意障害があると,登録が不完全となる.把持(貯蔵)は保存し続けることである.再生(想起,検索)は必要に応じて呼び出す過程である.
B.記憶の把持期間による分類
1.短期記憶short-term memoryまたは即時記憶(瞬間記憶immediate memory)
新しい情報をしばらく意識上にためておく能力であり,時間的には長くて10秒(から1分以内)である.検査に際しては数の順唱がよく用いられ,干渉を入れず直ちに再生させる.作業記憶(作動記憶working memory)とは,外から得られた情報を,一時的な貯蔵庫に数秒間蓄え操作する一連の過程を指す.臨床的には,短期記憶と作業記憶は同じに使用される.
2.長期記憶long-term memory
短期記憶よりも保持時間の長い記憶である.記憶を把持し続ける時間が,数分から数十年に及ぶ.これを近時記憶recent memoryと遠隔記憶remote memoryに分ける.
近時