診療支援
治療

意欲低下(制止)
inhibition
菅原裕子
(熊本大学医学部附属病院・神経精神科)
坂元 薫
(赤坂クリニック坂元薫うつ治療センター・センター長)

【定義】

 意欲とは,個体の生命や生活の維持に必要な行動をするように内から駆り立てる力である欲動driveと欲動を自己統制する精神作用である意志willを含むものであり,人間を行動に駆り立てる力のうち低次なものから高次な統制力までを含めた概念である.欲動が減退すると自発性や活動量が低下する.このような意欲低下は,前頭葉障害や間脳障害などの脳器質疾患,うつ病,統合失調症などでみられる.欲動そのものの低下はみられなくても,意志の発動過程に障害が生じた場合にみられるのが(精神運動)制止であり,うつ病でみられる.

【分類】

 意欲低下は抑うつ気分を伴う場合が多いことから,分類は抑うつ気分を呈する疾患と共通している().

 意欲低下が著しい場合には,意識は清明であるにもかかわらず,外界の刺激に全く反応しない昏迷状態を呈することがある.周囲の状況を認識していて,原則的にはそのときのことを追想することができる.

 昏迷状態には大きく分けて以下のものがある.

1)うつ病性昏迷:抑うつエピソードにみられる昏迷状態であり,意欲,発動性が極端に低下した制止の極限状態である.

2)緊張病性昏迷:統合失調症の緊張型()にみられる昏迷状態であるが,実際には緊張病性昏迷は統合失調症よりも双極性障害において認められることが多い.無言・無動や発動性の極端な低下のため外部から与えられた姿勢をいつまでもとり続ける「カタレプシー」がみられることもある.

3)解離性昏迷:最近生じたストレスの多い出来事あるいは対人関係上の問題などが心因となって生じる昏迷状態である.

 また,低活動性のせん妄を含めた軽度の意識障害や認知症の初期症状として,意欲の低下がみられる場合もある.

【鑑別診断のポイント】

 意欲低下がみられる場合,抑うつ気分の鑑別診断と同様に,成因による鑑別,操作的診断基準に基づく鑑別を行う().高齢者の場合には,せん妄や認知

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