診療支援
治療

統合失調症の治療予測因子
predictive factors for treatment outcome in schizophrenia
兼子幸一
(鳥取大学教授・精神行動医学)

◆治療予測因子の概念

【定義】

 統合失調症の転帰の予測因子は,患者自身の生物学的・心理的要因から,家庭環境や社会的援助などの社会的要因まで実に多様である(表1).このうち,発症前後の患者自身や環境に関係する要因で,治療反応性に影響を与えるものを治療予測因子とよぶ.本項では,治療上重要な,修正可能modifiableな予測因子に焦点を当てて記述する.

【分類】

A.精神病未治療期間

 最初の精神病症状の出現から適切な治療を受けるまでの期間を精神病未治療期間duration of untreated psychosis(DUP)という.DUPは数少ない修正可能な予測因子の1つとして注目されており,発病早期に認知機能や社会機能が顕著に低下するという臨床的事実や,精神病状態は脳に対して毒性をもつという生物学的仮説と関係が深い.DUPが長いと“寛解”に至る尤度が低いなど,治療反応性の予測に有用で,長いほど治療反応性は悪い.ここでいう“寛解”は,中核症状とされるPANSS8項目(妄想,不自然な思考内容,幻覚による行動,概念の統合障害,衒奇症と不自然な姿勢,情動の平板化,受動性/意欲低下による社会的引きこもり,会話の自発性と流暢さの欠如)の得点がすべて3点以下,かつ,この条件が6か月以上続く状態と操作的に定義される.DUPと治療反応性の関係は早期介入の根拠にもなっている.例えば,2年以上の追跡研究のメタ解析で,DUPは精神症状の重症度,社会的機能の障害と正の相関を示した.他方,QOL,雇用,治療指標(入院回数または在院期間)とは関係しなかった.

 統合失調症の亜型によっては,例えば解体型のように発病様式が潜在性であるためにDUPが長くなりうる.この仮定では,DUPの長短と転帰の関係は発病様式と亜型による予後の違いという要因の介在で生じている可能性が考えられる.しかし,病前適応レベルの統制後も,D

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