診療支援
治療

緊張病(カタトニア)
catatonia
大久保善朗
(日本医科大学大学院教授・精神・行動医学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 緊張病catatoniaは,Kahl-baumの緊張病にその概念の起源をもち,無動症,無言症,昏迷,カタレプシー,命令自動,姿勢保持,常動症,拒絶症,反響言語など,姿勢,動作,言語に関して意思発動の障害を呈する特徴的な症候群である.Kahl-baumの緊張病は循環性の経過をとる予後良好なものを含んでいたが,のちのKraepelinは慢性に経過して荒廃に至る経過の緊張病に注目して,早発痴呆の一亜型として包含した.その考え方が引き継がれ,長い間,緊張病は統合失調症の一亜型として診断されてきた.しかしながら,緊張病は,統合失調症よりも気分障害,特に双極性障害において認められることが多く,身体疾患に伴う精神症状として認められることも少なくない.また,発熱や自律神経失調を合併した悪性緊張病ではさらに重篤な身体合併症の危険性が高く,治療の遅れは致死的な転帰をもたらすことがある.加えて,緊張病は原疾患のいかんにかかわらず,一定の治療法が有効なことから,緊張病を呈する状態を1つの症候群として扱い,治療することが推奨される.このような考え方が受け入れられ,DSM-5では,緊張病は統合失調症の一亜型ではなく,すべての精神疾患,他の医学的疾患,または基礎疾患が不明な場合でも,診断可能な特定用語に変更された.

【病態・病因】

 緊張病では,前部帯状回,背外側前頭前野,補足運動野,基底核,視床の異常または病変が報告されている.これらを含む神経回路の機能障害により,意思発動の障害を呈する特徴的な症状を呈する.抗精神病薬による悪性症候群は,ドパミン遮断によって悪性緊張病が誘発されたものという考えがあり,両者には類縁の病態が想定されている.したがって,神経化学的にはドパミン神経系の機能低下が考えられる.さらに,治療に用いられるベンゾジアゼピン系薬剤はGABA作動薬であることからは,G

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