診療支援
治療

不安症・強迫症の疾患概念
岸本泰士郎
(慶應義塾大学専任講師・精神・神経科学)
三村 將
(慶應義塾大学教授・精神・神経科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 本章で扱う不安症や強迫症は,次章の解離症,身体症状症とともに,伝統的には神経症(neurosis,psychoneurosis,Neurose)という概念でまとめられていた.神経症は一般に,精神的原因,すなわち心因によって精神的,あるいは身体的な症状が引き起こされた状態を指し,現実検討能力(reality testing)が障害され,外的世界が著しくゆがめられて認識される精神病と区別される.歴史的にはカレン(W.Cullen)(1777)により提唱された概念で,当初は神経疾患全体を指していたが,その後,器質的神経疾患,進行麻痺,てんかん,内分泌障害など各種器質疾患が除かれ,心因性の症状のみが残った.その後,シャルコー(J.M.Charcot),ジャネ(P.Janet),フロイト(S.Freud)らによって神経症の心理規制の解明に基づく神経症理論,およびそれに基礎をおく神経症の定義,分類が活発になり,より積極的な「神経症」概念が成立した.フロイトは神経症を「現実検討の障害をもたない個人に表れた症状」,あるいは「無意識の葛藤が不安を生じさせ,防衛機制の誤った使用へ導き,これが症状を形成する」などと表現した.

 一方,ドイツではゾンマー(Sommer)の心因性(Psychogenie)の概念以降,心因反応(psychogene Reaktion)のなかに神経症を含める傾向があった.シュナイダー(K.Schneider)は神経症と心因反応を含めて異常体験反応(abnorme Erlebnisreaktion)とよび,これを環境要因が大きな役割をはたす外的体験反応(äußere Erlebnisreaktion)と,個体側の人格要因の関与が大きい内的抗争反応(innere Konfliktreaktion)に区分した.前者は狭義の異常体験反応,後者が神経症に相

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