診療支援
治療

混合性不安抑うつ障害
mixed anxiety and depressive disorder (MAD)
大坪天平
(JCHO東京新宿メディカルセンター精神科・主任部長)

◆疾患概念

【定義】

 混合性不安抑うつ障害mixed anxiety and depressive disorder(MAD)は,DSM-Ⅳ(1994)で,今後の研究のための基準案として提案された診断カテゴリーである.それは,主要な気分障害や不安障害の診断基準を満たさない範囲(閾値以下)の抑うつと不安症状を同時にもつ不快気分で特徴付けられる(表1).DSM-Ⅳのこの診断は,世界保健機関(WHO)が,ICD-10(1992)に,同じような閾値以下の不安・抑うつ状態を混合性不安抑うつ障害として,F4神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害に取り入れたことを踏襲している.

 DSM-5草案段階では正式診断として提案されていた.その診断基準案の概略は,抑うつ気分または興味と喜びの喪失を含む抑うつ症状が3または4項目,不安症状が2項目以上であった.しかし,Field Trialにおいて評価者間の診断一致率は,-0.004,つまり偶然の一致の程度も超えないという惨憺たる結果となり,DSM-5(2013)の診断項目としては見送られ,かつ今後の研究のための基準案からも削除された.

【MAD診断の意味】

 MADはDSM-5からは削除されたが,慣用診断としては軽症の不安うつ病に相当する.特に,プライマリ・ケアにおいて,軽症の抑うつや不安症状を伴うことが多くあり,かつ,見過ごされ,問題となることが多いと指摘されている.その軽症の抑うつや不安症状が,必ずしも治療対象とはなるわけではない.しかし,閾値以下の抑うつや不安症状がある群は,気分障害や不安障害の診断基準を満たした群と同程度に高率に社会医療サービスを受けているし,高い社会的障害度(薬物治療,身体的・感情機能障害,休職期間,自殺企図)を示すことが指摘されており,閾値以下の症状が臨床上重要な意味をもつ可能性があることに注意を向ける意味では,

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