診療支援
治療

選択性緘黙
selective mutism
石塚佳奈子
(名古屋大学大学院・精神医学)
本城秀次
(ささがわ通り心・身クリニック・院長(三重))

◆疾患概念

【定義・病型】

 選択性緘黙は,話す能力があり,他の状況では話しているにもかかわらず,学校など特定の社会的状況で声を出して話すことが一貫してできない状態をいう.DSM-5の定義では,その障害が,学業上,職業上の成績,または対人的コミュニケーションを妨げていること,少なくとも1か月以上持続していることが求められる.社会的状況で要求されている話し言葉の知識,または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではなく,コミュニケーション症でうまく説明がつくものや,自閉スペクトラム症,その他の精神病性障害などの経過中にのみ起こる場合は除外する.

 選択性緘黙については,いくつかの病型分類が提案されている.ここでは大井の分類を挙げておく.

A.タイプⅠ:社会化欲求型

 家族以外にコミュニケーションをみずから求めるもの.家庭外の沈黙とは逆に,家庭内ではおしゃべりで,家庭内と家庭外での対人態度に非常に差がある.沈黙は自己の立場を維持しようとする自己主張としての意味をもつ.

B.タイプⅡ:社会化意欲薄弱型

 家族以外にコミュニケーションを求める意欲に乏しいが,受動的には求めるもの.家庭外で沈黙することはもちろん,家庭内でも無口であり,生活行動全般に意欲が乏しい.周囲の流れに身を委ねて行動することが目立ち,家庭内外を問わず自己の存在主張に欠ける.

C.タイプⅢ:社会化拒否型

 家庭以外にコミュニケーションを拒絶するかのごとく求めないもの.家庭外での沈黙のみならず,家庭内においても選択的に沈黙する.父親を避け,母親との強い結合がみられる.

 タイプⅠは神経症的で,一般に予後は良好である.タイプⅡ,Ⅲは神経症の範疇におさまりきらず,家族の要因や,本人の精神疾患が隠れている場合も多い.予後も決して楽観できない.

【病態・病因】

 選択性緘黙は,その病因としていくつかの要因が指摘されている.緘黙児は,正常

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