診療支援
治療

境界性パーソナリティ障害
borderline personality disorder (BPD)
平島奈津子
(国際医療福祉大学教授・精神科)

◆疾患概念

【定義】

 境界性パーソナリティ障害(BPD)は,情動調整障害,同一性障害,衝動性制御不良などを主な特徴とする症候群である.

【病態・病因】

 BPDの症状は“氷山の一角”であり,一般的に,水面下に隠れている本態は,さまざまな病態のスペクトラムであると考えられている.BPDの要因としては,生物学的要因と後天的な要因の両方が想定されている.例えば,一貫しない養育や劣悪な環境による心因説,発達障害スペクトラム説,気分障害スペクトラム説,外傷スペクトラム説などが提唱されている.また,セロトニンの代謝異常(先天的・後天的)も病因として仮定されている.

【疫学】

 わが国における有病率を示す調査はほとんどない.米国における有病率は一般人口の約2%であり,わが国も同程度ではないかと推察される.約75%が女性であるといわれている.

【経過・予後】

 複数の長期予後調査で,治療を受けた患者の8割以上が中等度以上の改善を示し,この割合はうつ病患者とほぼ同等である.その一方で,慢性の経過をたどる者もいる.いったん診断基準を満たさなくなると,再び満たすことはほとんどない.否定的予後の指標としては,薬物乱用,顕著な反社会的特性,不機嫌さ(ディスフォリア)などの存在が挙げられる.自殺率は3-10%と,調査によって幅がある.

◆診断のポイント

 操作的診断(DSMあるいはICD分類)を用いる(表1)

 思春期から青年期にかけて,一般的に,重要な他者(親や恋人など)との関係におけるささいなストレスを契機として,種々の問題行動を繰り返すことで事例化する.重要な他者に対して“見捨てられ感情”を抱きやすく,他者の気持ちを執拗に試すために自殺の脅しや自殺企図を繰り返す.このような“他者へのしがみつき”の背景には,1人で生きていけないような慢性的な空虚感や無力感がある.患者はそれを回避しようとして,物質乱用や性的逸脱行

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