◆疾患概念
病的窃盗は精神科医療の未開拓分野であり,その研究と対策は著しく遅れている.精神障害としての病的窃盗,クレプトマニアkleptomaniaは,古くからある概念であるが,その輪郭は曖昧なままである.DSM-5(2013年)と国際疾病分類,ICD-10(1990年)のクレプトマニア診断基準には,うつ病に合併した窃盗癖を合併精神障害としてクレプトマニアに含める(DSM-5)か,クレプトマニアからの鑑別除外診断とする(ICD-10)かなど,重要な点で違いがある.なお,DSM-5の邦訳では,クレプトマニアに「窃盗症」という新しい病名が採用された.DSM-5による窃盗症の診断基準を字句どおりに制限的に解釈すると,診断基準に合致する症例はほぼ皆無になる.
ところで,DSMの改訂に際して,窃盗症の有病率には大きな変化があった.具体的には,DSM-Ⅳ(1994年)で,一般万引き犯の5%未満とされて