診療支援
治療

病的窃盗
kleptomania
竹村道夫
(赤城高原ホスピタル・院長(群馬))

◆疾患概念

 病的窃盗は精神科医療の未開拓分野であり,その研究と対策は著しく遅れている.精神障害としての病的窃盗,クレプトマニアkleptomaniaは,古くからある概念であるが,その輪郭は曖昧なままである.DSM-5(2013年)と国際疾病分類,ICD-10(1990年)のクレプトマニア診断基準には,うつ病に合併した窃盗癖を合併精神障害としてクレプトマニアに含める(DSM-5)か,クレプトマニアからの鑑別除外診断とする(ICD-10)かなど,重要な点で違いがある.なお,DSM-5の邦訳では,クレプトマニアに「窃盗症」という新しい病名が採用された.DSM-5による窃盗症の診断基準を字句どおりに制限的に解釈すると,診断基準に合致する症例はほぼ皆無になる.

 ところで,DSMの改訂に際して,窃盗症の有病率には大きな変化があった.具体的には,DSM-Ⅳ(1994年)で,一般万引き犯の5%未満とされていた有病率は,DSM-5では4-24%に変更された.また,DSM-5では,一般人口中の窃盗症有病率が0.3-0.6%であるとされ,これはギャンブル障害の生涯有病率,0.4-1.0%に匹敵する高い有病率である.女性は男性より多く,3対1とされている.

 本稿では,上記「窃盗症」の診断基準にはこだわらず,一般精神科臨床で多少とも治療的関与を要する常習窃盗患者全体を対象として論じる.

◆治療方針

 常習窃盗行為は犯罪と精神障害としての両方の特徴をもっており,その混合の程度はさまざまである.そのうち犯罪性に比べ病的特徴が目立つ人々が医療施設を受診しているといえる.実際には,臨床的に遭遇する常習窃盗症例は,9割以上が万引き常習の単独犯であり,しかも1回の被害額が数千円以内の例が多い.

 常習窃盗臨床例では,半数以上で他の精神障害を合併しており,合併精神障害としては,摂食障害(特に神経性過食症),物質使用障害

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