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拘禁反応
prison reaction
野村俊明
(日本医科大学教授・医療心理学)

◆疾病概念

 拘禁反応は拘禁という特殊な状況を契機として発症するさまざまな精神障害の総称である.古典的な診断体系では心因反応に分類される.DSMなどの操作的診断基準には厳密な意味で合致する項目が見いだせないと思われる.拘禁状況は一般に行動の自由を剥奪され社会から隔離されることを意味しており,テロや人質事件などによる拘禁を含むが,拘禁反応の概念は刑務所などの矯正施設への収容による拘禁への反応を対象に,主として19世紀後半のドイツで発展した.

 拘禁反応の症状は多岐にわたっており,軽度の不安・抑うつ・不眠などの反応から昏迷・幻覚妄想状態などの精神病性の症状やけいれん・失立失歩などの身体症状まで,ありとあらゆる状態がありうる.拘禁反応が生ずる根底には,将来への強い不安・自由の束縛による圧迫・乏しい外的刺激・悔恨などの心因が関与していると考えられている.とりわけ将来への不安が影響するため刑が確定した刑務所・少年院よりも未決で収容される拘置所・少年鑑別所において発生頻度が高いとされる.

 拘禁反応に特異的な症状として記載されたものに,ガンザー症候群・レッケの昏迷・赦免妄想・擬死反射・監獄爆発などがある.これらの精神身体症状は主にドイツで記載され,戦後のわが国でも確認されてきたものであるが,矯正施設(拘置所・刑務所・鑑別所・少年院)における処遇の変化により今日では経験することが少なくなっている.私見では,これらの精神病理現象は現代では外国人の被収容者に多くみられる.その理由としては言語が通じないことや異国で拘禁されたことにより不安が著しく強まることが関係していると思われる.

 拘禁反応という概念の精神医学的な意義は大きく3つ挙げられる.第1に今日軽視されがちな心因が有するインパクトを改めて認識させるという臨床的な意義がある.多様な精神病性の症状が長期にわたって持続することを経験することは心因が

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