診療支援
治療

祈祷性精神病
invocation psychosis,Invokationspsychose
大宮司信
(北翔大学教育文化学部教授・精神医学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 森田正馬が名づけた憑きものに関する次のような疾患概念.「加持祈祷若くは之に類似したる事情から起って人格変換,宗教妄想,憑依妄想などを発し数日から数月に亘りて経過する特殊の病症」.森田はかなり広範囲の状態を含めているが,今日では,心因性に発症し,人格変換を呈する憑依状態とほぼ同義と考える.

【病態・病因】

 森田が着目した病態の中心は人格変換であるが,より不完全な意識の変容を中心とする状態も本疾患に含めている.直接には宗教や俗信が絡むが,背景に長期間の心的葛藤のあることが多い.

【疫学】

 発症頻度は今日きわめて低い(筆者の外来新患調査では0.27%).

【経過・予後】

 予後は一般に良好である.しかし性格要因が強かったり,状況因,例えば家族状況が困難な場合には,再発や他の形態を示す精神症状が持続することも珍しくない.

◆診断のポイント

 統合失調症との鑑別がポイントとなる.統合失調症の特異的症状がみられれば問題はないが,森田も述べているように経過をみないと確定に至らないことも少なくない.現代の操作的診断のなかでは,祈祷性精神病は解離性障害の一部に位置づけられるにすぎないが,コックリさん遊び,新宗教の宗教儀礼,自己啓発セミナーなどで意識変容を伴う憑依状態を,本疾患としてとらえることが可能である.

◆治療指針

A.治療方針の概要

 いわゆるマインドコントロール,セミナー,宗教活動などの直接の原因がある場合には,それから離れることがまず第1である.また表面上の奇妙な言動や激しい精神運動興奮だけに目を奪われることなく,経過をみるうちに明らかになる生活上の諸問題への対応が治療上重要である.

B.薬物療法

 これまでの報告例ではハロペリドールなどのブチロフェノン系薬物の使用が中心である.新規抗精神病薬による治療については明らかではないが,抗不安薬のみでは精神症状への効果はあまり期待で

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