診療支援
治療

神経性やせ症
anorexia nervosa (AN)
西園マーハ文
(白梅学園大学子ども学部発達臨床学科教授)

◆疾患概念

【定義・病態】

 神経性やせ症(神経性無食欲症,神経性食欲不振症)は,極端な節食を特徴とする摂食障害の一型であり,多くの場合,節食の背景には,自分の体型に関する歪んだ認知がある.一般には,「拒食症」として知られている.社会全体で,ダイエットが流行している現在,診断基準を満たさないレベルの体重減少など,神経性やせ症のグレーゾーンの対象も少なくない.診断基準を満たさない場合でも援助が必要なケースは多いことに注意し,適切な対応をする必要がある.

【疫学・発症要因】

 診断基準を満たす症状をもつ神経性やせ症者は,若年女性の0.5-1%といわれている.男女比は,1対10-20という報告が多く,有病率には大きな性差がある.初発は思春期から20歳代までが最も多いが,小児期や中年期以降の発症もみられる.

 神経性やせ症という言葉が作られた19世紀後半には,欧米先進国において,内科学や精神医学の領域で詳細な症例報告が行われた.これらの症例の存在は,ダイエットブームには無関係な発症があることを示し,食欲調節機構など,生物学的因子も発症にかかわっていることを示唆する.近年の症例の増加は,生物学的脆弱性をもった対象が,ダイエットにより,病理が顕在化する機会が増えている面もあると思われる.

【経過・予後】

 経過としては,短期に回復するものもあるが,長期化もある.難治疾患と考えられがちであるが,患者群全体の回復率曲線をみると,約10年間は回復の可能性があることが観察されている.軽症例では,より早期の回復の可能性が高い.最初から慢性疾患と考えず,援助を行うことが重要である.体重回復後も,肥満恐怖などの心理面の症状が持続することは多いので,再発には注意が必要である.最終的に,10-15%は,月経回復レベルまで体重が改善せず,慢性神経性やせ症の状態にとどまる.死亡率は,種々の精神疾患のなかでも最も高い部類に

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